現実a-3
「おい、そろそろ帰ろうぜ。悠紀夫と則夫もゲームが待ってるんだろ?」
「おお、その通り!アーマゲドンオンラインの世界が俺を待っている!」
「今日から俺もプレイヤーだ!せっかくだし陽もやらないか?」
「俺は遠慮しとくよ。睡眠学習のが為になりそうだ。」
嘘ではない、あの夢以来どうにも体育の成績が上がり始めているのだ。もちろん内容は言えないが。
「ま、俺もかえって壁相手にパス連でもするかね。せめてベンチプレイヤーでも少しはやっとかないとな」
高校近くの駅までは一緒だが悠紀夫以外は皆違う路線を利用している。なので駅前広場でいつも通りの解散となった。
同じ路線の悠紀夫はスマホを食い入るようにみて例のゲームの情報を集めているようだ。しかし、電車が混みだす時間に歩きスマホは危ないだろう。
カチャン、と何か軽い物にぶつかる音がした。どうやら盲人の白杖にぶつかってしまったらしい。
やってしまった。
「あ、どうもすみません大丈夫でしょうか?」
ただでさえ歩きスマホは不味いのにましてや障碍者にぶつかってしまうとは。薄青色の鍔広帽をかぶりサングラスをして髪が短めにカットされている女性に謝ると共に俺は白杖を拾い上げ手渡す。
「大丈夫ですよ。こちらこそすみません……」
清楚でかわいらしい唇から鈴がなるような美しい声が聞こえる。白杖を渡すとき柔らかい手に触れ少しドキッとしてしまう。白杖を持ち、点字ブロックを探し当てると、こちらをふり向いて彼女はこう告げた。
「どうもありがとうございました。ご親切な方」
「こちらこそ本当にすみません。あのなんでしたらどこに行くのかご案内しましょうか?」
「大丈夫ですよ。この駅には毎日来てるので、親切にありがとうございます」
そういうと彼女は困った様子も無く駅から住宅街の方に歩いていった。
「綺麗な人だったな」
悠紀夫がつぶやくように言う。確かに、化粧もなくこれといった飾り気も無い白いワンピースが似合う美人だった。首元のストールは6月でもまだ夕方には冷えるからだろうか。
「ああ、今時中々お目にかかれない美人だったわ。」
「あ~あ、あのサングラスの下にはどんなに美しい瞳があるのか見てみたい!」
「お前、目の見えない人に何言ってんだ? ま、もう会うことも無いだろうしさっさと行くぞ。これ以上電車が混むのは耐えられん」
「ん~まあそれもそうか、でもあの人何か変だったんだよな……」
「お前、失礼だろ。そんなこと言ってると、親友やめるどころかHDDの中身学校に晒すぞ」
「おいバカやめろ。自殺するよりキツイやつじゃねぇかそれ。しかしなぁ……」
「まだいうか、このアホは!」
「いや失礼なことというか、なんとなく違和感があったんだよな……」
「なんなんだよ。俺は別にそうは思わなかったぞ」
「んん~、まあいいか、俺にはヴァ~チャルな世界が待ってることだしな」
全く相変わらず現金な癖に変なことにこだわる奴だな。あんな礼儀正しい人に変な違和感なんかある訳ないだろう。少し首をかしげながら家のほうへと歩いた。
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