現実d-12
「来栖やめなさいよ。時間の無駄だわ雑魚に構う時間は自分の為に有効に使いなさいよ」
「そうはいかないな。こうして知り合った以上、縁は切れない。出来ればウチの道場で剣術を学んでもらうのもありだな」
「あの、質問なんですけど剣道と剣術って何がちがうんですか?」
似たような物だと思っていたが、昨日の来栖先輩の動きは剣道とはどこか違うような気がした。
「まあ、解りづらいよね。まず剣道はスポーツ、剣術は武術というのが大きな違いだ。剣道には打って良い箇所の制限がある。そして原則、竹刀か木刀までしか使わない。一方剣術は基本的に制限が無い、どこを斬ろうが突こうが構わないんだ。流派にもよるが真剣、つまり本物で練習することもある。細かい点をあげればきりが無いからこれくらいで解っていればいいよ」
なるほど、来栖先輩が色んな斬り方をしていたのは剣術を学んでいたからか。
「なら剣術を学んだ方がいいんじゃないですか」
「普通そう思うよね。でもキミの場合その必要は殆どないんだ」
なぜ俺の場合は必要無くなるんだ? 誰でも色々できた方がいいんじゃないか。
「今日、香苗との二度目の立ち合いでそれを強く感じたんだ。もちろん両方学ぶに越したことは無いんだけどね」
あの惨敗に何を感じたんだろう? さっきもなんか褒められてたが。
「どっかいいとこありましたか?」
「ああ、キミは考えながら闘えるタイプだろう。そして瞬間的な反応が驚く程早い。一度目で負けた後、二度目は弱点をカバーして闘えたよね。アレどうやったの?」
「それは新堂のやり方をコピーしただけで、こうすれば同じ負け方しないかなって」
「それで最後に体当たりしたのは何故?」
「竹刀が間に合わないから、もう突撃するしかないって判断です」
我ながら敗れかぶれの闘い方だと思う。しかしとっさに浮かんだのはそれだったのだ。
「その判断は間違ってはいないんだよ。ただ香苗が速かったでけで。そうやって自分で創意工夫ができるなら基礎をじっくり固めさえすればいい」
そんな物でいいのだろうか?
「更に言えば、キミは毎晩あの世界で闘ってる、命懸けでね。結局、実戦に勝る練習はない。巻き藁を斬るよりゴブリンでも斬る方が練習になるのさ。俺もあっちにいってから、剣の術理が漸く理解出来たと思ったしね」
確かに現実にモンスターはいないし、人と斬り合うなんてありえないだろう。
「そういう訳で、基礎のみを固める為に剣道を進める。部活なら俺も面倒見れるしね」
無駄のない完璧な理屈だ。しかし、新堂は不服そうだ。
「アンタ防具持って無いんじゃないの。毎回借りるつもり?」
「それは部で余ってる物を使えば貸せばいいだろ、ちょっと匂うが問題無いさ」
なんとなく嫌だな他人の面とか付ける気しない。だが言い返す理屈には弱い。出来れば虹江と会う時間を減らしたくないくらいだ。しかし強くなれば虹江を守れる訳だし……
「どうしても嫌かな? なら、第3の道がある。香苗にここで教えてもらえばいい。演劇部が幽霊部員の巣窟だってことくらい3年生で知らない人間はいないからね」
そりゃそうだ。来栖先輩はもう2年以上この学校に通っているのだから知らない訳が無い。しかし新堂と練習なんて逆に気持ちが悪い、まだ来栖先輩のシゴキの方がマシだ。
「ちょっと待ちなさいよ。勝手なこと言わないで。私がいなくなったら剣道部はどうなるのよ」
「心配ない去年の剣道部に戻るだけさ。俺の誤解もとけるだろうし、新堂マネージャーは厳しすぎるって声もあるしな」
「それは部活を強くしたいからであって、愛の鞭ってやつよ」
「それが行き過ぎて今年の入部者の殆どが消えたんじゃないか。蒼馬に懐いてるからなんとかしろって部長にも言われたしな」
この女、剣道部でも暴れてたのか。クラスじゃ元気な子くらいに見えてたから、これが本性だと知ってる生徒は少なそうだ。
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