現実d-11
「まずこれを両手に持って、足を肩幅に開いて腰を少し落として。そしたら膝を柔らかく使って腰を正面から左右90度ずつ交互にひねる。これを30分繰り返して。ペットボトルは両方胸の前に持ち上げて、飛んでいかない程度軽く持てばいい」
そんなどこぞのダイエット体操みたいなものでいいのだろうか? 試しにやってみると脇腹はまだ痛むが出来なくはない。
「もっとシャープに動いて、足裏はべた足で、膝を柔らかくして。頭がぶれてる。頭のてっぺんからお尻まで真っ直ぐ鉄の棒が入ってるのイメージして」
言われた通りやってみると中々難しいぞコレ。隣で柊も行っている。アイツ動き早いな。
「顎を上げんか! 腕も下がってきてるぞ! 鈍るな! しなるように動け!」
本条先輩の激が飛ぶ。10分もやるとたいして重くも無かったペットボトルがやたらと重く感じる。
「2人共、剣や足を振るう前に体幹を作るんだ。これだけで、技の精度は飛躍的に増す」
「これ毎日やればいいんすか?」
「慣れてきたらペットボトルを重い物に変えればいい。鉄アレイは高いし落としたら壁や床に傷がつくが、ペットボトルなら最悪でも濡れるだけですむからね。ジュースでも飲めばいくらでも手に入るだろう」
「むう、これは柊の方がうまいな。達哉は鍛錬を怠っているのか?」
「仕方ないよ。柊君はサッカー部だし、基礎トレはやってるんだろう。達哉君はもっと肩の力を抜いていい」
「これいつやればいいんすか?」
「練習前と風呂に入る前がベストだ。風呂上りはストレッチも忘れずに」
こうして30分の体幹トレーニングは厳しい指導の元、終わったもう汗だくだ。
「済んだら、ペットボトルの水飲んじゃいなよ。スポーツドリンクじゃなくて悪いね」
今は一滴の水でも有難かった。喉を通る水が心地いい。
「じゃあ、2組に別れて技の練習をしようか。本条、柊君お願い。当てるのは無しで」
まだやるのかトレーニング……本条先輩は不服そうだが柊を連れて右に向かう。俺は来栖先輩と左に向かった。新堂は退屈そうにこちらを見ている。
「今のはあくまで体幹作りに過ぎない。キミは普段剣を使うんだろ。その基礎をこれから教えるね。キミは曲刀を使うんだろう? これからもそうするのかな?」
武器の買い替えはまだ悩んでいる最中だ。右手首のミミズ腫れが疼く。これは次はガントレットを買う必要を感じる。
「まだ考えてますが、まずはガントレットを買おうと思ってます」
「なるほど、香苗にやられたことから学んだね。悪くない判断だ。後は脛をやられても不味いからレギンスを選ぶのもいい。どっちも慣れておかないとね。 ならしばらくはファルシオンを使うことになるかな」
「多分そうなると思います」
「ではまず武器の特性を理解するところから始めようか。叩き斬るなら、ファルシオンの様な肉厚な曲刀は最適だね。初心者でも使いやすいだろう。判断は間違ってないよ」
「ありがとうございます。武器屋でも初心者向けだって言われましたから」
「問題は斬ることに特化しすぎてる点だ。正直突きづらいと思ったことはない?」
それはしょっちゅう考えてたことだ。突きはあまり使っては来なかったが、もっと使いやすければ良いのにと思った事は何度もある。
「よくありますね」
「だろうね。剣道でも実戦でも突きは強力な技だ。しっかり覚えて扱えれば恪上のモンスターとも渡りあえるようになる。ある程度の防御は貫通できるようになるからね。次の買い替え武器は【サムライロングソード】あたりがいいだろう。名前の通り刀に近いから斬りやすく突きにも問題がない、ただこの武器はファルシオンと違う技術が必要になる。上位武器になればなるほど、必要な技術が違ってくるんだ」
サムライロングソードは実は狙っていた武器だが、1800オーロと高価だった。買うのはかなり先になりそうだ。来栖先輩は続ける。
「ただ、お互いに基礎は変わらない。なので今日は基礎を教えようと思う」
「あの今日はって?」
「もちろん、明日からは剣道部に来て練習だ、それとも演劇部が忙しいかい?」
ヤバい幽霊部員だ。このままじゃ来栖先輩のシゴキに毎日耐えなければならなくなる。どうしたもんかな。その時、新堂が口を挟む。
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