現実d-13
「私、嫌よ、こんなの相手にするだけ時間の無駄だもの。ちゃんと来栖のマネジメントしてあげないと」
「それについては余計なお節介だね。そっちの方が時間の無駄だよ。やるべきことは解ってるんだ。お前が伸び悩んでる意味が解ると思うしな」
「私伸び悩んでなんていないわよ。着実に強くなってるじゃない」
「ならなんで女子剣道部に入らなかったんだ? そっちから強く勧誘されてただろ」
確かにそうだ。性格は最悪だが新堂の剣道の腕はかなりのものに違いない。何故マネージャーなのだろう?
「そんなの私の勝手よ。来栖につべこべ言われる必要ないでしょ」
「いや、あるね。いい加減兄離れしろよ」
やはりそうか。新堂と来栖先輩の距離は近すぎたと思ったのだ。
「あ、兄離れって、わ、私……」
「香苗は小さい頃から俺の後を付いてきたろ? 同じ高校に来たのもその為じゃないか? そろそろ自分の道を歩むべきだ。その為に、教える側に回るのは悪いことじゃない。俺はこれを機会に成長した今まで見たことの無い香苗が見たい。それでも嫌かな?」
来栖先輩は本気で新堂を心配しているのだろう。その声には静かな迫力があった。新堂はしばらく黙ると、
「解ったわ。このダメ人間を少しはまともな剣士にしてみせるから。だから……」
「大丈夫、夢では一緒だから」
俺を置いてきぼりにして話は済んだようだ。
「と、いうわけで明日からは香苗とここで練習してくれ。達哉君も複雑だと思うけど、きっとプラスになるからさ。生意気な奴だけどよろしく頼むよ」
こんなに良い話っぽくされると断れないじゃないか! 一緒に居たくない女ナンバーワンなのに……
「言っておくけど、私は来栖程甘くないからね」
こいつもやる気になってやがる。もう仕方がない。強くなる為と割り切ろう。
「解ったよ。ただ俺も忙しい時があるから、その時は休みな」
「休みはそうそう無いと思って頂戴、アンタ教えること多すぎだから」
「今日のうちに出来ることは済ませておくから、香苗はフォローしといてくれ」
新堂にガミガミ言われるのは嫌だし、ここは来栖先輩から教えてもらえるものは全て覚えてしまおう。
「まず、竹刀をもって正眼……あの時香苗の真似をしたように構えてごらん」
言われて構えると来栖先輩はもう少し真っ直ぐや剣先の高さは目線に合わせてなど細かい注意をしてくれる。
「その状態からなるべく力を抜いて、素早く雑巾を絞るように動いてごらん」
剣先が少しぶれるように動く、だが、速い動きだ、しかしこれ何の意味あるんだろ?
「普通振り方から始めるもんじゃないんですか?」
「うん刃筋を立てて振るうことから始めるんだけど、キミはもう慣れてるだろ? だから剣速を増すことを始めてるんだよ。とにかく絞ることで剣速が速くなる感覚を覚えてほしい」
こんなことで速くなるんだろうか? 軽くぶれただけのような気がする。本当に意味あるのかコレ?
「疑問はたくさんあると思う。本来なら剣は当たった瞬間に引く、押すを行うことで切れ味が各段に増すんだけど、今はそこまで考えなくていいや。ファルシオンなら強く速く当てるだけでも充分だしね」
しかしこの雑巾絞りみたいな動きに何の意味があるのだろうか?
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