夢b-2

 しばらく待っていると、布に包まれ隙間から銀色の輝きが覗く塊のようなものを店長が持ってきてくれた。


「ちっと型は古いがその分いい鋼材を使った一品だぜ。倉庫の肥やしにしてるのがもったいないくらいにな」


 笑いながら店長は商品の布を解く。そこには埃を被った形跡など無い。余程丁寧にしていたか、あるいは……。


「このタイプは1人で着脱しやすいからな。腰と肩のベルトを外せばいいが、着る時を考えて片側は外さないほうがいいぜ」


 なるほど、両側を外してしまうと後ろを誰かに抑えてもらうか、壁にもたれかかる必要がありそうだ。店長の助けを得て着てみるとサイズはピッタリだった。


「おらっ、これで駆け出しから一人前に見えるぞ。パッと見はな……にしし……」


 う、まだバカにされているここはビシッと決めてイクとこだろう。


「ありがとうございます。今度買いに来るマント分20オーロ、ツケておいてくださいね!」


 しかし店長のにしし笑いは止まらない。


「おい、本当に次マントでいいのか? ワシから見るとその前に買う物あるんじゃないか?」


 なんだと言うんだろ? 次マント買いに来いと言ったのは店長じゃないだろうか?


「なんですか? 何かおかしいですか?」


「おおっと、粋がるのは一人前に装備を整えてからにしな。まず自分の手元を良く見てみるんだな」


 なんだろう? ブレストプレートは腕の自由さが売りだ。素手で何も問題無いはずだ。


「なんで鎧そろえて素手なんだよ。見てるとおかしいぜ。こいつは笑わせてもらった分だ。持ってきな」


 そう言うとぽいっとハーフフィンガーの皮手袋を渡された。


「一流を目指すなら覚えときな、良い戦士は派手な鎧よりも良い籠手や具足にこだわるもんだ。万が一こけたり武器がすっぽ抜けたら命にかかわるからな」


 言われてハッと気づいた。そういえば剣を振るってる時に汗ですっぽ抜けそうな時がたまにあったことを。もし戦闘中、剣がすっぽ抜けたりしたら、ギルドで登録したときに支給されたダガーナイフ1本で闘うことになる、もしそれが強敵相手なら即座に死を意味する。


「ありがとうございます。俺、大事なこと見えてませんでした!」

「ハハハッ、いいってことよ、しっかり稼いでマント買いに来いよ。その次はレギンスかガントレットか……言っとくが商人ギルドと冒険者ギルドは情報交換を欠かさないからな。お前さんがフ抜けたり死んだりしたらすぐにわかるんだぜ」


 なるほど、以前武器屋でも店員が笑いをこらえてるように見えたのは、冒険者ギルドから情報が回っていたからか。


「大丈夫ですよ。もう笑われる冒険者にはなりません! 今度マント買いに来るときはいっぱしの冒険者になってきますから!」

「そりゃいい、そのプレートの胸の部分に彫られた鎌に対する盾のマークはウチの商品ってことだ。みっともねぇことしやがったらすぐに解っちまうんだからな」


 そこまで言われたらマヌケな真似は出来ない。


「おらっ、装備を新調したんだ、しかも素寒貧なんだし、とっとと冒険者ギルドに行ってきな。このままじゃ、今夜の晩飯も食えねーだろ? 流石にそこまではウチで面倒見てやらねーからな」

「はい、解りました。ではいずれマント買いに来ますんでそれでは!」

「おう、またな」


 訂正しよう、無愛想どころか親心まで感じるくらいのいい店長だった。防具屋を出て目抜き通りを奥まで進むと昨日も来た冒険者ギルド【青銅の蹄】にたどり着く。

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