―――夢b

夢b-1(挿絵あり)

 起きると昨日眠りについた【ルンレスト】の街のベッドとランプを置いたサイドテーブルしかない安宿だった。昨日は1000オーロ近い大金をどうするか悩んでいるうちに眠ってしまったのだ。夢の中で眠るというのもおかしな話だがやはりここは初日の教訓を生かすため防具を買い換えよう。

 武器に関しては、買い換える必要はない。今、手にしているのは2回目に買い換えた武器【ファルシオン】だ。湾曲した刃は突きづらくあるものの、斬ることに関しては前の【ロングソード】をはるかに上回る使いやすさだった。これには自分自身に剣道などの心得がないから、力付くで切り付ける以外の技術が殆ど無いことが理由の一つだ。防具は初期の【クロース】よりマシな程度の【レザーアーマー】だ。


 武器の方がカッコイイからと、防具をおろそかにしてしまったのだ。いっそ一段上の【チェインメイル】ではなく、有り金を全てつぎ込み【ブレストプレート】にしてみようか。チェインメイルの上の【スケイルメイル】は防御は今より優秀で動きやすいようだが、なんだかトカゲのような独特の形状がイマイチカッコよくなかったのだ。


 ……決めた! 


 例えオケラになろうとブレストプレートを買おう! この宿をチェックアウトして朝一番に防具屋に行き、今着ているレザーアーマーを下取りに出せばギリギリ買えるはずだし。強固な胸のプレート部分は頼りになりそうだ。腕の自由も制限しないし。 それに何よりカッコイイ! そうと決まればすぐに宿【番犬のねぐら亭】をチェックアウトし防具屋を目指した。


 このルンレストの街は、ギリシアン子爵の収めるキブツ領の街であり、金属製品の質は他の街と一枚違うと有名だ。目指す防具屋【レシステンシア】は、この街の目抜き通りに店を構え、その質はこの街一と評価を受けながらも鍛冶屋からほぼ直営でいい品を安く売ってくれると評判の高い店だ。

 もう店は開いているかな? この世界では時計は非常に高価なものらしく、殆ど教会の鐘の音と太陽の傾きで大雑把な時間しか解らないのが不便だが、流石に2週間以上過ごしてくると慣れるものだ。すでに朝市は活気を出しており、教会の鐘の音が聞こえないということは時間にしてみればザックリ午前9時前だろう。朝市に並ぶ桃が食欲をそそるが、今は1オーロも無駄遣いできない。市場のおばちゃんの安いよ攻撃に耐えながらも目抜き通りを無事通り、お目当ての防具屋にたどり着く。


「いらっしゃい、随分早いな」


 この店の禿げかけた店長は無愛想だが、再寸の目は確かで必ずピッタリのサイズの防具を出してくれるのだ。


http://illusttototoni.nobody.jp/yume_b-1.html

(URLに飛ぶと飯山ダイズさんの描いた挿絵に飛びます)


「ブレストプレートが欲しいんだけど、サイズの丁度いいのはあるかな?」

「ほう、レザーアーマーからいきなりそっちに買い換えるのか。随分景気がいいんだな」

「いや、財布には1000オーロしかないんだけど、このレザーアーマーを下取りに出したらいけるかなと……」

「なんだよ下取りに出してもそんなくたくたの革鎧じゃたかがしれてるぜ。まあ20オーロは確実に足りねえな」


 なんということだ! 憧れのブレストプレートがもう目の前にあるのに高々20オーロ足りないくらいで……店に入る前のテンションはほぼ0になってしまい意気消沈してると、店長が、


「んん、お前もしかして最近駆け出しのタツヤって奴だよな。このレザーアーマーもウチで買っていったもんか……ふむ」

「え、おっちゃん俺のこと知ってるの?」

「まあ、結構有名だからなゴブリンにボコられて女魔術師に助けられたへっぴり野郎が最近、コボルト狩りが出来るまで成長したってよ」


 ああ、なんということだ考えられる限り最悪な覚えられ方だ……


「ふ~む……たかだか2週間でコボルト狩りってことは成長性はあるってことか、しかたねぇな、いいか。次の鎧はかなり高いから今度買うなら上に羽織れるレザーマントだ。ウチに買いに来い、サイズはピッタリの物を用意してやるからな」


 ん? なんだか言い方がおかしいまるでここ以外で買うなって言ってるみたいだ。


「え、それってつまり?」

「今回はしかたねぇ、欲しいんだろブレストプレート。そのかわり今度マント買いに来た時、代金を上乗せするからな」

「マジで! おっちゃん! あ、いや店長さん、ありがとうございます」

「へっ調子のいい野郎だぜ。ちっと待ってな確かお前さんに合うサイズの奴が倉庫にあったはずだ」


 なんていい人だろう。それとも夢独特のご都合主義か? どっちだって構わない。あの憧れのブレストプレートが手に入るなら。

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