現実a-4
「ただいま〜」
住宅街にあるさして大きくも無い、2階建ての1軒家に帰宅すると妹の美弥子(みやこ)が、華奢なボディラインに似合ったツインテールを揺らしながら駆けてくる。
「おかえり~、ねえ、あにぃのノーパ、部屋に持っていっていい?」
帰ってきた兄に対する労いの言葉もほどほどに急なことを言い出す。
「別に構わないけど、何に使うんだ?」
聞くと、あどけない顔に笑みを浮かべながら答える。
「んふっふ~、今ねガッコで流行ってるオンラインゲームがあんのよ。それやりたくてさ」
「あ、もしかしてアーマゲドンオンラインってやつか?」
「あれ? あにぃも知ってんの? でも先にプレイするって決めたのはアタシだからね。あにぃのノーパ借りていくよ」
全く勝手なことを言い出しやがって。下らないことを話していれば、母さんからのお叱りのセリフが飛び出した。
「2人とも玄関先でみっともない。達哉も帰ったなら早くお風呂入っちゃいなさい。ご飯はもう出来てるんだからね」
全く反論の余地も無い完璧な母さんからの正論にうなずくと、自室に帰りカバンを置き部屋着に着替え風呂に向かう。すぐ風呂に入るのに部屋着に着替える必要があるのか少し無駄な気がするが、こうしないと母さんの雷を食らうのだ。
制服に皺がつくのを避ける為というが、その程度どうだっていいじゃないか。母さんは細かすぎる気がするが、間違ったことでもないので、従うしかない。
風呂はマリンブルーの色にメントールの香りの入浴剤が入っており、日中の熱さに疲れた体に丁度よかった。
風呂を上がり寝間着に着替えると夕飯が待っていた。今晩のメインは好物のチキン南蛮だ。我が家の方針は出来るだけ多めに作り、余りは弁当に回すようにしているため、チキンの竜田揚げが山盛り積み上げられている。このメニューは美弥子も好物なのであまり残ることが無い。これでもかとばかりに母さんの特製タルタルソースを塗りつけ大口で頬張るのだ。晩飯は弱肉強食! 恥じらいの欠片も無い食べ方ではあるが、注意などしてる暇があるならこちらも食べなければならないのだ!
結局、美弥子は5つの鶏肉を平らげ、俺は8つの鶏肉を胃袋にぶち込んだ。母さんは2人とも寝る前にそんなに食べると太るわよと、言っていたが10代の食欲の前にそんな言葉は無意味だ。何より俺には夢の中とはいえ、冒険が待っているのだ。腹が減っては戦はできぬというしな。
歯を磨き、ベッドを整えていると、バンっと乱暴に部屋の扉が開かれた。
「あ~に~ぃ~、ノーパ貸してくれるって約束したでしょ!」
「あ~、ゲームやるんだっけか? そう言えば悠紀夫も始めるって言ってたっけな」
「え、ユキ兄ちゃんも始めんの? そういうことは早く言ってよ! オンゲはリアルの知り合い重要なんだよ!」
「そーいうもんなのか? てか、まさかお前、悠紀夫のこと…!」
「いやいやいや、それは無いから。アタシの好みはもっとシュッとした爽やかイケメンなんで~」
「兄としてはあまり聞きたくない情報だな。てかゲームやんのはいいけどあんまり夜更かしすんなよな。貸した俺が母さんに怒られんだから」
「それくらい節度をもってやりますよ~だ。ついでにあにぃのブクマも覗かないから安心してね」
「見られて恥ずかしいものなんて無いがな」
見られてヤバいホームページは偽装フォルダーの中に入れパスワード付きで保管だ。アイツの性格上、イチイチ履歴を遡ることなんてしないだろう。もちろんアレな物を見た後、様々なリンクを飛び回っておいている。ヘタに履歴を消すのはやましいページを見てますと言うのと変わらないのだ。
「じゃあ安心してノーパ借りてくね。ゲームダウンロードするくらいいいよね?」
「構わないけど、ゲーミングPCって訳じゃないから動作重いなんて苦情受付ないからな」
「その辺は安心して。アーマゲドンオンラインって推奨スペック驚くほど低いから」
「ふ~ん、そんなモンで大流行するほど面白いゲームになんのかね? まあ問題無いならいいや。後、壊すなよ」
「は~い、おやすみなさ~い、お・に・い・さ・ま」
「キモイ! 早く自分の部屋に帰れ!」
そう言うと美弥子は疾風の如くノートパソコンを抱いて自室に帰っていった。隣からパタンという音が聞こえてきた後、しばらくするとクラシックベースのBGMがほのかに聞こえる。これくらいの音なら寝るのに問題無いと判断し、ベッドに大の字になった後、掛布団にぐるりと包まる。これぞ、最も良く寝れる最高のポジショニングなのだ。枕元のリモコンスイッチで部屋の電気を消し、暗くなると同時に意識を眠る方に深く潜る。
今日は何をして過ごそうかな……
―――深く夢の中へ―――
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