夢b-3
「お、なんだいきなり装備の新調か随分奮発したな」
髭のマスターはやはり気付いたようだ。女の子じゃないが新しい服装? を気付いてもらえると中々嬉しいものだ。
「もう、新しい依頼出てるかい?」
「ああ、そっちの掲示板に貼り付けてあるぞ。どうだ? 新しい装備のテストを兼ねてこの前よりおススメの依頼を試してみちゃどうだ?」
「魅力的なお誘いだけど、いきなり醜態晒したりなんて事があっちゃ困るからな。とりあえず昨日と同じでコボルト狩りの依頼を受けてみるよ。いい依頼あるかな?」
「いやぁここ最近お前さんが頑張ってるからな、コボルトの依頼は確か今日は来てないはずだ。代わりにウェアウルフの依頼があったはずだぞ。夜の連中はかなりヤバいが昼ならコボルトよりもちょっと手強いって感じだろう。受けてみなよ。攻撃も似てるし昼間なら動きは鈍い筈だぜ」
なるほど、依頼はウェアウルフの爪8本の納品、報酬は700オーロか……
「なあ、これコボルトより強いのに報酬少なくないか?」
「その分納品の数は少ないだろう。新装備の調整には丁度いいと思うぞ。それにお前さん一人だからな、誰かとパーティーを組まないならこれ以上の依頼は渡せないぞ」
「なんでさ? 昨日はコボルト10匹以上に完勝だったんだぜ。もっといい依頼あるだろ?」
「タツヤよぅ、俺はこの店をギルドから任されてもう何百人って冒険者を見てきてるんだ。その中でも行ったきり帰ってこない連中の共通点って何か解るか?」
「う~ん……、弱い奴とかか?」
「ちげぇよ、運良くか才能があったのかわからねぇが、そこそこひよっこ脱却って奴だ。それも1人でな」
「それが俺みたいだって言いたいのか?」
「みたいじゃねえ、そのものなんだよ。最初は失敗したがお前さんはいっぱしの依頼もこなしてきた。だが1人ならここらが限度だな。このまま行けば、間違いなく近いうちに帰って来ない奴の仲間入りをする」
「俺はそんなに弱くない! 防具も新調した! あんまり甘く見るなよ!」
侮辱されたと感じ、思わず声を荒げてしまう。
「ほう、甘く見るなときたか! であれば、やはりウェアウルフを狩りに行け。今回は特別に失敗しても依頼は受けなかったことにしてやる、まあ今回はなんで失敗するのかが宿題って奴だな」
「ああ良い条件だね! ありがたくって涙がでらぁ!」
もはやお互いに怒鳴り合いとなり、周りの冒険者がこちらを見ながらヒソヒソ話までしている。中には失敗か成功か賭けまでしている奴が出る始末だ。こうなると俺ももう引けない、最後に思い切り怒鳴るようにギルドハウスにいる皆に聞こえるように叫ぶ。
「冒険者タツヤ、ウェアウルフの爪8本の納品依頼確かに受けた! 成功か失敗か賭けてる奴は成功に賭けとけよ! 俺が儲けさせてやるぜ!」
ウオオオォォ! と騒動好きの冒険者達は叫ぶ、こっそり賭けをしていた連中はもう隠し立てせずに大声で賭けを始めている。マスターは目をふせ、かぶりをふり、呟く。
「まったく、あのバカ……」
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