夢b-4

 扉を壊さんばかりにバンッとあけるとまず街と外との門を抜け南の【アバダン平原】へと向かう。ルンレストには立派な城壁があり入出は門を通るしかない。アバダン平原はよくコボルトを狩っていたあの平原だ。ウェアウルフはそこから西の森林地帯に生息しており朝は眠っているらしい。奇襲をかけて1体ずつ仕留めて行けば運が良ければ4体、悪くても10体程度で爪は8本集まるだろう。アイテムドロップは完全にランダムなのだ。運が良ければ1度に2個手に入ることもあれば、まったく手に入らないこともある。自分の夢なんだからもう少し融通を利かせてもいいだろうに。


 ここいらで最弱のモンスターは獣系のハウンドだ。見た目は灰色の大きなシベリアンハスキーのようなもので2~3体程度で群れをなして襲ってくる。この世界で2日目に闘いボロボロになりながらも支給されたダガーナイフ1本で勝利しハウンドの毛皮3枚を納品したのが最初の依頼だったのを思い出す。稚拙な連携こそとって来るものの経験を積んだ今、怪我を負う程恐ろしい存在では無い為、さしたる脅威ではない。向こうもこちらを勝てない存在と認識しているのか、積極的に襲いかかってくることはなくほとんど無視していい存在だった。


 1時間ほどでアバダン平原に着いた。南西に真っ直ぐ進めばもう森林地帯にたどり着いていただろうが、まず適当なコボルトを探し戦って新装備の感覚を掴むことが目的だ。

 ここまで歩いて解ったがブレストプレートの重さは長く動くと結構な負荷がかかる。これは長時間戦うなら無視できない、剣を振るうならなおさらだろう。

 そんなことに思案を巡らせながら周りを見渡すと一匹のコボルトがいた。こいつらは縄張り意識が強いのか基本群れをなさない、見た目は2足歩行の犬みたいなもので、身長は個体差があるが俺とあまり変わらないから175cm程度だろうか。鋭い爪と大きな口をいかした強い咬合力を武器にした噛み付きが主な攻撃手段だ。もう3日以上は相手にしてきた敵で要するに新装備のお披露目にはおあつらえ向きの相手だった。


 向こうもこっちの存在に気付いた……いや気付いていたが無視できないほど縄張りに入られたのか。人間が走るより早い速度でこちらへ向かってくる。こちらも剣を抜く。

 最初の一撃は大振りの爪攻撃か首を伸ばしての噛み付きだ。3歩手前で口を大きく開いたなら噛み付き、食いしばるようにしたなら爪攻撃、もはやパターンは読めている。今回は口を開いた。噛み付きが来る。右に半歩動き、右足を軸に身体引きながらを4ぶんの1回転させる。コボルトの口が虚しく空を噛んだ瞬間、こちらは伸びきった首筋に剣での一撃を叩きこむ。


 ゴロンとコボルトの首が落ち、ついで噴水のように血が勢いよく流れる。その後はお決まりのように光に包まれ姿を消す。運がいいことに牙を1本ドロップした。


 今回の依頼品ではないが、売れば10オーロ程度になるし、もし依頼が出ればその時は役に立つ。とりあえず拾い革製の道具袋に入れる。この道具袋も原理は謎だが、いくら入れてもほとんど大きさは変わらず重くなることも無い。財布の革袋と同じ原理だろうか? 袋より明らかに大きいハウンドの毛皮をダメ元で突っ込んでみた時すっぽり入ってしまったのにはビックリしたものだ。


 もっとも今、重要なのはそこでは無い。身体がイメージ通り動いたことだ。これで更に万が1体に攻撃が当たっても厚いプレートが攻撃をはじいてくれるならもはや、この辺で負ける敵はいないのではないだろうか? イケる! この調子ならウェアウルフの10体程度軽く狩れる! そう確信して、軽やかな足取りで西の森林地帯に向かう。


 この世界で森に入るのは初めてだが予想以上に薄暗い。まだ中天の時間だろうに鬱蒼としたこの森は【チュレアの森】と呼ばれているらしい。雰囲気こそ不気味だが、この森で最強と言われるオーガにさえ気をつければ最悪なことは起こらないだろう。


 警戒して感覚を研ぎ澄ますと森独特のほのかな甘い香りの中に獣臭い匂いを感じる。右手の方だ。木の陰に注意して辺りを探索していると、茶色の筋が入った緑色の大きな毛玉のような存在を発見した。この配色は森で生き抜く為の迷彩色なのだろうか。こちらから10歩程度離れた場所でその身体がゆっくり上下しているところを確認する。初見のモンスターはしっかり観察することが大切なのは痛い思いをしてきた中で学んできた。

 3分ほど気配を殺し様子を見ているが、どうやら深く寝入っているらしい。間違いない、今なら奇襲を取れる。剣を音もたてず抜くと忍び足で近づく。理想は首筋に一撃だが、丸まって寝ている為、背中への一撃をどれだけ深く入れるかが重要になりそうだと考えていた所、あと5歩になった瞬間、目の前の特大の毛玉は弾けるように一瞬で起きあがった。


「ガゴォォォォォ! グルルゥ!」


 警戒音なのだろうか? 俺は剣の柄を強く握る。奇襲は失敗に終わった。ここからは本気でやり合わなければならない。頭を切り替える。ウェアウルフの行動パターンは聞いたことがある。コボルトとさほど変わらないと。


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