夢b-5

 しかし立ち上がったそれは2mを超える大きさだった。コボルトよりも二回り大きいくらいか。どちらにしろ行動パターンが解っているなら関係無い。さっきと同じことをすればいいだけだ。こちらは後の先で立ち向う。さあ来い。と考えた瞬間、ガンッと大きな衝撃が左脇腹に走り右に吹き飛ぶ。


 おかしい、まだ充分間合いはあったはずだし敵は目の前にいたはずだ。なんで左から攻撃がきたのか転がりながらも悩んでいる暇は無い。チラリと左を確認する。茶色のハウンドがこちらに向かってくるのが見えた。さっきまでこんな奴いなかったはずなのに……。考えてる場合じゃない。まずハウンドの追撃を避けねばならない、こいつらは相手を転がすと容赦なく喉笛を食いちぎりにくるのだ。起き上がり様に目の前に迫るハウンド相手に剣を突き入れる。曲刀の為か充分な当たりではないが、ハウンド相手に不足は無かったようだった。


 しかしまだウェアウルフがいる。目の端で光を確認し、後ろに瞬間的に腕を目の前で交差させつつ飛びのいた。この判断は正解だったようだ。ウェアウルフの爪は立ち上がった瞬間に正確にこちらの頭を刈りに狙ってきたのだ。腕に鋭い痛みが走る。飛びのいていなければ左腕は持っていかれていただろう。剣を持つ右手が無事なら戦える。


 剣を片手で構えながら血の滴る左手で左腰につけた道具袋を探る。いざという時の為に即効性のポーションが2個あったはずだ。まだ1匹目だが迷ってる暇は無い。これ以上傷が広がり流血が酷くなれば戦えなくなる。対峙したウェアウルフは動かずこちらを確認している。こっちの動きを読んでいるのだろうか? とりあえず畳みかけてくることがないのはありがたい。


 手探りでポーションを出すと親指でコルク栓をはじき一気に飲み干す。ペパーミントを濃くして溶かしたようなツンとくる味が口の中に広がりそれを飲み下すと左腕の傷と左腰の鈍い痛みが消える。


「グルルゥ! オゥン!」


 またウェアウルフは叫ぶ。今度は前だけで無く周囲にも警戒する。今度は何か動物のようなものが走ってくる音が聞こえてきた。

 解ってきた。こいつの鳴き声は威圧なんかじゃない、ハウンドを呼んでいるのだ。ハウンドに特攻させ相手を倒し、自分が止めを差す。それがコイツの必勝パターンか。コイツ自体も厄介なのにハウンドの突進も避けなければ。


 瞬間、上からガサリと枝の弾かれる音がする今度はハウンドの来ている右に飛んだ。その刹那ドスンと真横に新たなウェアウルフが落ちてきた。カンで動いたがそうじゃなければ潰されて終わっていただろう。なんだこれは……。こいつらはコボルトなんかと明らかに違う。1匹でも持て余すのに更にもう1匹追加と来た。


 状況はかなり絶望的だ。左のウェアウルフ相手に剣を振るう。しかし剣は虚しく空を斬る。攻撃を避けた! コイツら、剣が危険な物だと理解してやがる。間違いない、自分には手に余る敵だ。逃亡も視野にいれなければならないと考えるが、こちらに向かってくるハウンドはいつもの平原を走るのより早く感じる。色が違うし特別な個体なのだろうか? しかしさっきは1撃で倒せたし……。

 とにかくこのポジションはヤバい。3方向から攻められる形になってしまう。まさかこれを狙っていたのだろうか? 高度なチームワークに加え森という立体的な移動を敵が可能な地形、戦術をこれ以上誤ればそこには死が待っている。すぐに思い至り、こちらに向かってくるハウンド目がけて走り出す。

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