夢b-6
まず敵を減らす、そして自分に有利なポジションを確保する。初日のような救援なんて都合よく来ないだろう。自分の力で切り抜けなければ。
ウェアウルフに背を向けるのはかなりの博打になるが、もはや後ろから襲われないことに賭けるしかない、かなり分の悪い賭けではあるが……。やはり現実は厳しい。背中にガツンと重い衝撃が走り前方に転がる、目の前にはハウンドの大きな口が待っていた。それに対し左手でダガーナイフを抜き全力で突き入れる。
この1撃で終わってくれれば……。目の前に光が広がる。どうやら運よく急所に刺さったらしい。反転して確認もせず片手で剣を突き出す。固い肉に刺さる感触が腕を伝う。突きに向いてない剣のうえ、片手での力では致命傷は狙えないだろう。
だが、またカンは当たったらしい。こいつらは起きあがり越しを狙ってくるのだ。なんとか新たなハウンドを呼ばれる前に1体は減らさねばならない。また賭けに勝つとは限らないのだから。
守勢に回ればまた新たな敵を呼ばれてしまう。かといって、やぶれかぶれの攻撃は当たらないだろう。こいつらの瞬発力と動体視力は人間を超えている。2匹目に現れ、さっき後ろから襲ってきたウェアウルフと正対し両手で剣を持ち刃を右に腰だめに構える。 動いた所を視た後では間に合わない、飛んだ瞬間に合わせて水平に剣を振るう。リーチだけならこちらが勝っているのだ。ただし待ちではダメだ。剣道のすり足の要領で近づいていく、先ほど後ろから加えられた1撃から考えるとかなりの膂力があるだろう。さっきは前に走っている所を後ろからプレート部分に当たり、衝撃が分散され運良く肌の露出のしていない部分を狙われた状態だった。この体勢ではあんな幸運は望めないだろう。
こちらの希望は刃渡り80cm程のファルシオンだ。胴に真横からのなぎ払いを1撃。これで決めるしかない。縦の攻撃では狙える的が狭くなるし、あの筋肉の盛り上がった肩口に剣を切り落とした所で一刀両断できる自信は無かった。相手もいつもの必勝パターンを2度も崩され警戒してるのだろうか? 身体を沈め飛びかかる構えを取っている。もう1匹が気になる所だが、よそ見をする余裕は無い。先ほどの雄たけびが聞こえないので、まだハウンドは呼ばれてない。今がチャンスなのだ。
バンッ! 相手が地面を蹴る音が響いた。瞬間に全力で剣をなぎ払う。固い物に触れたが身体ごと剣を半回転させる、ゾブリッという感覚から剣を伝う重さが急に軽くなる。どうやら横一文字の攻撃は成功したらしい、光が目に入る。
この瞬間を待っていたのだ。残り1匹のウェアウルフに向かい一気に駆け抜ける。モンスターが消えるときの光を目くらましに使ったのだ。夜行性のモンスターならさぞかし効果はあるだろう。その瞬間を逃さず今度は唐竹割りに頭部を全力で狙う。これ以上警戒されることを考えると勝機はここしかない。
ゴッ! と地面を蹴る音に合わせて剣を振り下ろす。硬質なものに当たる感覚を両手に覚える。だがそんなものは無視し、体重を剣に預け一息に振り下ろす。ゴリッという鈍い感触の後、右から側頭部に太い腕がラリアットのように当たって左に吹き飛ばされる。倒しきれてなかったか……。
クラつく頭を無理矢理右に向け追撃に備えようとする。しかし、目に入ったのは光に包まれ消えていく頭が半分にかち割られたウェアウルフの姿だった。動くものに反射的に反応したのだろうか? 間合いを読み違えて反撃していたようだ。
本当に紙一重の勝利だった。どこか一歩間違えれば間違いなく死んでいただろう。まだ頭がクラクラする。
確かに攻撃パターンはコボルトと変わらなかった、威力は段違いだったが。それよりも重要な違いがある。高度なチームワークを使ってきた点だ。周囲を確認する。どうやら近くに気配は感じない。足元にはナイフのように鋭い20cm程の爪が2本転がっていた。急いで拾い上げ道具袋にしまう。
コボルトの牙も5cmと大きいと感じたが、これほどとは……。こんなもので切り裂かれたら、たまったものでは無い。必要なのはあと6本だが、とてもではないがこのまま戦い続けられる自信は無い。さっきはうまくいったが、幸運が続く保証はどこにもないのだ。
悔しいが、ここは撤退するしかない。まださほど森に深く入っていないのに、このありさまなのだ。周囲警戒を続けつつ、森を出ることにする。
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