夢b-7
マスターの言っていた宿題の意味がなんとなく解った。地形による見通しの悪さ、一度に多勢を相手にする危険、何より敵に連携を取られること。おそらくマスターはそれを踏まえて痛い思いをさせて学ばせるためにこの依頼をやらせたのだろう。
確かに学べた、文字通り命懸けで。こんな戦いをしては命がいくつあっても足りないだろう。
夢の中で死ぬとどうなるのだろうか? 現実でも死んでしまうのだろうか? そこまでのことは多分無いだろうが、確実にいいことはないだろう。何より痛いのは嫌だ。死にかけたことは初日にあったが、あれ以上となると想像を絶する痛みに違いない。
アバダン平原はというと、いつも通りだった。たまにコボルトやハウンドを見かけるが、今は早く街に帰ってマスターのジュースを1杯飲みたい気分だ。いつもの依頼の10倍は疲れている気がする。そう言えば今回は失敗しても依頼は受けなかったことにしてやると言われていたな。あれはバカにしていたんじゃない、こうなるのも恐らく予想済みだったのだろう。
ギルドハウスで成功に賭けろなんて大口を叩いていたのが恥ずかしく感じる。8本の依頼をたったの2本じゃ大失敗もいいとこだ。たいして深い付き合いでもないがみんなにどんな顔して会えばいいか解らない……。1人赤面していると聞きなれない音が聞こえた。いや、これは音じゃない。声だ。
「いやっ! こっち来ないで!」
みればショートヘア―にローブ姿で木の杖をもった少女が3体のハウンドに襲われていた。助けなければ……。瞬時にその考えに行きつく。少女の方向に剣を抜きつつ駆けて行きながらこちらも声を上げる。
「今助けに行く! それまで身を守って!」
駆けつけ、剣を3回振るうとハウンド達は姿を消した。
「大丈夫か? どこか噛まれたりしてないか?」
「いつつ、腕を少し……」
恐らく腕を噛んで引きずり倒そうとされたのだろう。噛まれた傷はそれなりの深さがあった。
「ポーションはある? 無いならあげるけど」
「ありません、でもこれくらいなら大丈夫です……」
何が大丈夫なのだろうか? かなりの痛みのはずだ。
「いや、絶対大丈夫じゃないから、金なら気にしなくていいよ。普通のポーションなら大した額じゃないから」
実際、普通の治癒力を大幅にあげる遅効性のポーションなら特売で1本10オーロ程度で買える。もっとも今回、森で使ってしまった即効性のポーションはその10倍の値段がするが……。
「大丈夫なんですよ。自分で治せますから」
ん? なんだって? 自分で治せる?
「イタイノイタイノトンデイケー!」
小さな子供に言い聞かせるような文言を唱えると、なんと痛々しかった傷が何事も無かったように治ってしまった。もしかしてこの子……。
「その恰好といい、今の魔法といい、もしかしてキミ魔術師?」
「はい、一応、まだ大したこと無い攻撃魔法と簡単な治癒くらいしか出来ませんが……」
「そうなんだ、どれくらい前から魔術師してるの?」
自分でも頭の悪い質問だがこう聞くしか無かった。
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