夢b-8
「あの、それより街に行きませんか? また襲われたら怖いし……」
そこで完璧に自分目線で話していたことに気づいた。俺にとってハウンドは大した敵ではないが、この子にとっては恐るべき敵なのだろう。無理もない。大型犬3匹に襲われたら恐怖と混乱しかないだろう。
「あ、ゴメン、気が付かなくて。ここからならルンレストが近いけどそれでいい?」
「はい、お願いします。あ、あとお礼遅くなってすみません。助けていただいてありがとうございます。」
「いいよ。気にしないで。キミも冒険者だろう? お互い困った時は助け合わないと」
あの時、マスターが言いたかったのはこういうことだったのだろう。どちらにせよ死の危険は伴うものの、自分一人でなく誰かと一緒であれば、生存確率は上がるのだ。
「……はい、そうですね。……あれ? その鎧、背中に引っ掻かれたような跡がありますね?」
「うん、ちょっと森でウェアウルフにやられちゃってさ。まぁ、なんとか勝てたし、幸い、いい防具のおかげで傷はないんだけどね」
「えぇっ、凄いです……! あの森の殺し屋ウェアウルフに勝てるなんて!」
「いやいや本当に運が良かっただけなんだよ。……それにしても、残念だったね」
「え、何がですか? 私、助けてもらって運がいいですよ」
「キミ……あ、俺、タツヤっていうんだけどキミの名前聞いてもいいかな?」
「すみません、助けてもらったのに名乗り遅れちゃって、私はニジエと申します」
「ニジエさんね、オーケー。とりあえずルンレストに向かって歩きながら話そうか? 周囲への警戒は俺がしておくから、ニジエさんは気楽に歩いていいからね。どうせここらへのハウンドはこっちを見たら逃げてくから」
「……ああ! ハウンドは勝てない相手には近づかないって聞いたことがあります」
「そういうこと、こっちから追いかけたりしない限り向かっては来ないんだ」
「なるほど。……では、お言葉に甘えさせてもらいますね」
そんな話をしつつルンレストに向かう。暗くなっていた気分は幾分明るくなっていた。まだよくは見ていないが、ニジエさんはかなりの美少女だ。それをヒーローのように救ってしまうなんて、男のロマン冥利につきるじゃないか!
一応、この辺にもコボルトがいるのである程度の警戒はするものの、ここまでくればほぼ見かけることは無い。今や失敗のことを頭の片隅に追いやり、ニジエさんをエスコートする。
すぐにルンレストの街の門が見えてきた。安全の為、夜には閉じられてしまうが、まだ日は高く大きく門は開いている。
不思議と門番の兵士と話すことは無く彼らも無言だが、今日もフルプレートアーマーにアーメットヘルムで表情は見えないがパルチザンを持ち常に気をつけの姿勢をしている姿がなんだか頼もしく見えた。
「よしっ、到着! この後どうする?」
俺はニジエさんに尋ねる。
「私はまずギルドハウスにいかないと……。 依頼失敗しちゃいましたし」
「なんの依頼受けてたの?」
「ハウンドの毛皮3枚の納品、2枚しか取れなくて……。 あ、もしかしてさっきの残念だったって言葉……」
「多分、想像通り。何のドロップもなかったからさ。3匹もいたら落としてもいいはずだったんだけど、何にも落とさなかったから」
「ああ、後1枚で初依頼完遂だったのに……。 もしかして知ってたんですか?」
「なんとなくだけど、初依頼ってのは解ってたよ。後1枚ってのは解らなかったけどね。」
「ええっ、なんで初依頼って解ったんですか?」
「なんとなくかな、俺が初依頼で同じような失敗をしてたからさ」
あの頃はハウンド相手に必死だったことを思い出す。
「そうなんですか? かなり前なんでしょうね……」
「いや14日前だよ。あの時、俺は1匹相手に組み付いて必死にダガーで刺しまくってたな。その時噛まれまくってボロボロになってさ」
「そんな最近なんですか? 凄い速さで強くなってるんですね……」
「まあ、問題はその失敗を次に生かせるかだね」
自分で言ってて悲しくなってきた……
「確かにそうですね。最初は私も1匹ずつ遠くから魔法で倒してたんですが、集中力が薄まってしまって……」
「あれ? でも治癒の魔法使えてたよね?」
「ええ、もしかしてタツヤさんは魔法が使えないんですか?」
「ああ、うん見ての通りゴリゴリの戦士タイプだからさ」
「そうですね……とりあえず青銅の蹄に行ってゆっくり話しませんか?」
う、それを言われると急に気が重くなる。あんな大口叩かなければよかった……
「実はアソコ今、入りづらくてさ……」
「何かあったんですか?」
「まあ、うん、俺も依頼失敗しちゃってさ……」
「そうなんですか? でもちゃんと報告しないとマスターさん心配しますよ」
「いや、それがみんなの前でデカいこと言っちゃて……ああ、あんなこと言わなきゃよかった……」
「なんて言ったんですか?」
「それがウェアウルフの爪8本の納品受けて成功か失敗か賭けてる連中には成功に賭けとけよ……。俺が儲けさせてやるぜって……」
「まあ、それなら余計に早く帰って報告しないと」
「でもあんな大口叩いて失敗でしたってカッコ悪すぎてさ……」
「大丈夫ですよ。賭け事は自己責任なんですし、それに失敗しても生きてるってみんなに無事な姿みせてあげないと」
「ううぅ~、マスターとも喧嘩腰になっちゃったしさ」
「なら、尚更ですよ、マスターさんに謝って、でも無事ですって言わないと」
「怒鳴られたりしないかな?」
「心配いりませんよ。あのマスターさんとは今日初めてお会いしましたけど、誰かが死んだりして喜ぶような人じゃありませんから」
「そうだろうけど、でもさ……」
「ああっ、もう、さっきまではあんなにカッコ良かったのに、今はこんなにうじうじして! 今、最高にカッコ悪いですよ!」
「えっそんなに?」
「そんなにです! こうなったら引きずってでも連れていきますからね!」
おとなしそうな見た目に反してニジエさんは結構強引なようだ。
「わかった、わかったよ。失敗の上、女の子に引きづられて行ったらカッコ悪すぎるからな」
「そうですよ。タツヤさんはちゃんと男らしく、みんなの前で失敗しましたっていうべきです」
「それ男らしいの?」
「はい! 男らしいっていうかカッコイイ、タツヤさんらしいです!」
「俺らしいんだ……」
「はい! それに失敗をちゃんと認められる人ってカッコイイと思います。だから私もちゃんと失敗しましたっていうんです」
なんとも筋の通った意見だ。確かにこれはうじうじしていた方が恥ずかしい。
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