現実j

現実j-1

 朝起きると、嫌な汗で不快な目覚めをした。向こうで寝る前にグリゴリさんと話してしまったからか? それともリュシエンヌ婆さんの話を聞いてしまったからか? スマホはまだ6時前を示している。メッセージは来ていない。俺は朝のペットボトル体操を終えると竹刀を持ち、イラつきを払拭するように素振りを始めた。鈴木先輩の安否が気にかかる。来栖先輩のメッセージはいつ頃届くのか。100本を振り終えると、シャワーを浴び、制服を着ると、来栖先輩からメッセージが来ていた。

 鈴木から返信来たけど何か変だから昼休み学食に呼び出しといた、とのことだ。とりあえず生きていたことに安堵する。何が変なのかは昼に聞くしかなさそうだが、夢の世界での死のペナルティが現実での死に直結してないで良かった。リビングから味噌汁の香りがする。とりあえず、食事は喉を通りそうだ。食卓に着くと美弥子は如何にバスケ部のりょう君がいい男なのか父さんと母さんに説明していた。コイツも懲りないな。つべこべ言わずにりょう君とやらを父さんに合わせれ解決するのに。自分から父さんとの初対面の時のハードルを上げてることに気付いていないらしい。これ以上ここにいるのは時間の無駄だな。もう登校しよう。


「いってきます」


 時間も丁度いいころか、多分早めに学校についてもまた新堂の相手をするか、新堂のファンに恨み節を言われるくらいだ。今日は鈴木先輩の件も含めて考えたい事、話したいことが多すぎる。いくらかは解決すればいいのだが。

 電車の中では満員なのに男女ペアで張り付いているものが多い。またカップル増えてんのか。明日はもっと増えてんのかな。そんなどうでもいいことを考えていると、学校に着く、教室では既に新堂の周りに人だかりが出来ていた。きっとあのプリクラを見せたに違いないだろう。俺が席に着きカバンを置くと、人だかりの一部がこちらに来て質問攻めにする。


「キスはしたんだろ?」

「抱き合って羨ましいぞ、おい」

「で、で、もうやっちゃったの?」


 どこまでこいつら頭悪いんだ? 主な質問は俺と新堂が肉体関係を結んだかどうかに集中していた。


「俺達、プラトニック派だから、詳しくは新堂に聞いてくれ」


 そう言うとつまらなそうに人だかりは減ってゆき、席については皆スマホをいじりだす。すると悠紀夫が教室に駆けこんできた。コイツが予鈴前に教室に来るのは珍しいな。


「陽! こんばん夜9時に次の封印解除だぞ! 今度は嫉妬の封印だ。夜更かしせずに出来るんだから、今からでも始めろよ」


 今度の封印解除は随分時間早いんだな。ノリがイベントライブがあると言ってたし、それに合わせてだろう。しかし、封印解除って人が気絶するんじゃなかったか? そんなに早い時間にやって大丈夫なんだろうか。


「ノリは行くみたいだけど、悠紀夫はライブいかないのか?」

「俺はチケット当たらなかったんだよ。でも近いうちに、どでかいイベントがあるって噂あるし、それに賭けるしかないな」


 確か、そんな事、優さん言ってたな。近々更に大規模な何かがあるんだろうか。どちらにしてもチェックは欠かさない方がいいだろう。アーマゲドンオンラインがどういう形でか夢の世界に関わりがあるのは、ほぼ確実なのだから。予鈴がなるとまたもや一斉にスマホをしまう。この光景も見慣れてきた。多分、異常なのだろうが、それを当たり前と受け入れてしまっている自分がいる。異常も続けば日常になるか。意識してこれを異常なんだと思い続けなければいけないな。いつもは退屈な授業だが、今はこの時間だけが正常な日常のひとときだと感じられる確かな時間だ。

 久しぶりに真面目に授業を受けると、新堂と共に学食に向かう。なんでコイツ弁当箱2つ持ってるんだ? 学食ではいつものように柊が席を確保していた。隣には来栖先輩が既に座っている。目の前の弁当箱は4つ、また増えたのか女の子の手作り弁当。


「待ってたよ。教室にはちょっと居づらいから早めに抜けてきたよ。さあ、座って座って」


 おそらく、女の子が寄って来るんだろう。学食にもこちらをチラチラ見る女子がいる、恐らく来栖先輩に注目してるんだろう。座ると新堂が不意に声をかけながら、弁当箱を差し出してきた。

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