現実j-2

「はい、これ、私の作るついでに作って来たわ。学校では彼氏なんだから、残さずたべなさいよ」


 意外なとこで律儀だな。母さんから渡された弁当もあるから正直、2個も食べるのはキツイがここは新堂の弁当から食べるのが正解だろう。開けてみると、アスパラベーコン巻きにポテトサラダ、ウインナーにプチトマトのサラダと白米、飾り気は無いが、なかなかバランスが良さそうだ。アスパラベーコン巻きを口にすると、味付けは濃いめで俺には丁度いい。気が付いたら全て平らげてしまった。来栖先輩は笑顔でこちらを見ている。


「どうだい? 香苗の料理、中々いけるだろ。母さん直伝だからね」

「今までは来栖の分を作ってたから、大して手間かからないから。これくらいなら明日も作ってあげるわ」


 なら、母さんの弁当を断る必要があるかもしれない。2個目の弁当箱をあけていると、角刈りの大柄な人がきょろきょろしている。あれは鈴木先輩だ。良かった。怪我もしてないようだ。来栖先輩が手を振りながら呼ぶ。


「おい鈴木! こっちこっち!」


 呼ばれて、鈴木先輩がこっちに近づいてくる。なんだか怯えてるようだ。


「始めまして、来栖先輩。朝も聞いたんですけど、なんで俺のID知ってるんですか?」


 鈴木先輩は始めましてといった。そんな訳無い。連絡は取り合っていたはずだ。鈴木先輩は続ける。


「それにこの履歴なんなんですか? これから夢に入るって。俺も分かりましたって返事してますけど、20日くらい続いてるんですよ、このやり取り。何があったんですか?」

「覚えて無いのかい? 夢の世界で鎧兜で盾持って、俺達の事守ってたこと」

「すみません。コスプレとかした覚え無いです。夢の世界ってなんです?」

「本当に何も覚えて無いのかい? レベッカのことは?」

「誰ですその人? 俺、外国人の知り合いいませんよ」

「なら、22日前、俺とID交換したときのことは?」

「記憶に無いです。来栖先輩は有名人ですから、顔は知ってますけど、話すの今日が初めてです」


 鈴木先輩は夢の記憶が無いのは本当のようだ。しかし現実で会った事まで忘れてるとは。どうなってるんだ?


「もう行っていいですかね? 今やりたいことあるんで」

「構わないよ。他に用でもあるのかな?」

「いえ、起きてから無性にゲームしたくなって、今のめり込んじゃってるんです。知りませんか? アーマゲドンオンラインって」

「名前だけなら知ってるよ。でも俺はゲームに興味無くてね」

「それは残念です、では俺はブラッククルセイダーのレベル上げ忙しいんで。今日のイベントまでに、できるだけレベル上げときたいんですよ」

「そうかい、今日はありがとうね」


 そういうと鈴木先輩はそそくさと学食を出てしまった。ペナルティは記憶の消去なのだろうか。新堂が話す。


「浩二さんおかしいわ。前にアーマゲドンオンラインの話があがった時、ゲームには興味無いっていってたもの」


 その一言でなんだか1つ答えが見つかった気がする。


「纏めてみると、夢の世界で死ぬと夢の世界の記憶とその時、関わった人の記憶を失う。ついでに、好きでもないゲームを始めると」


 新堂が訂正を入れる。


「正しくはアーマゲドンオンラインを始めるね。これなら辻褄があってきたわ」


 なんとなく俺にも分かって来た。


「つまり、もっと大勢の人が夢の世界に飛ばされていたけど、初期位置の運が悪く、ほとんどが死に、記憶を無くしてアーマゲドンオンラインを始めたと」

「それなら辻褄合うでしょ。分からないのは飛ばされたトリガーね。柊、あんただけ遅れて夢の世界に来たけど、なんか心当たりない?」

「そうだな、そもそも俺は悠紀夫やノリにアーマゲドンオンラインのこと聞かされるまで知らなかったくらいじゃん。部活でも玉拾いばっかで部員ともあんまり話さなかったし」


 だとしたらトリガーが分かったかもしれない。

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