夢d-7
「今は解らなくていいの。大切なのは約束すること。たとえその約束は守れなくとも、人はただ、希望を糧に生きているのだから……」
なんだか解らないが約束をすればいいのだろうか? この人の言うことは抽象的すぎて解らない。
「じゃあ、右手を掲げて続けて言ってね。『今日この日、交わしたこの約束を私は守ります』はいどうぞ」
俺は右手を掲げ言われたとおりに続ける。
「今日この日、交わしたこの約束を私は守ります」
「はい、オーケー。このことは誰にも言わず忘れないでね。そろそろ仲間を迎えにいってらっしゃい。北東に進めば会えるわよ。私は気になったらまた会いに来るから」
それだけ告げるとグリゴリさんはフッとその場から消えてしまった。まるで最初からいなかっったように。いけない、不思議なことについて考えるのは後だ。今は仲間と合流しないと。
グリゴリさんに言われたとおり、北東に進むと座り込んだニジエとその前に立つ柊を見つけた。
「陽! 無事だったのか!」
柊は大声でこちらに叫ぶ。 続いてニジエが泣き腫らした顔で立ち上がりこちらに駆けつけ涙を流しながら抱き着く。
「もう会えないかと思いました……。良かった……。本当に無事で良かった……」
そこまで心配されてたなんて。心の奥が疼く。普段は頼りにしてる鎧だが今はなくなれば良いのに……。だがグリゴリさんがこなければ死んでいただろう。俺は安心させるようにそっとニジエを抱きしめる。その時、柊と目が合ったが空気を呼んでくれたのだろう。こちらから目を逸らしてくれた。
「大丈夫だよ。さあ、まだ依頼も残ってるし、このままじゃ俺動けないよ」
「すみません。嬉しさのあまり、つい……」
そこで柊はわざとらしく咳払いをし、
「ゴホン、さあ、後3本爪を集めに行こう。そこまで元気なら陽は怪我も無いようだしな」
「そう言えば、スワンプトロールはどうしたんですか? まさかやっつけちゃったんですか?」
さてどうしたものか。グリゴリさんとのことは迂闊には話せない。約束はどこからどこまでかも解らないしな。なんてはぐらかしたらいいものか。
「なんだか解らないけど、凄い火の魔法が飛んできてモンスターが爆発しちゃったんだよ。あれはなんだったのかなぁ?」
我ながらなんともわざとらしい芝居だ言葉が棒読みになっている。
「なんだそれ? 都合良すぎじゃん」
柊よ。せっかくだからここも空気を読んでくれ。ニジエにはいっそこっちから質問してしまおう。
「そう言えばニジエ、あのモンスターのことよく知ってたね」
「ええ、こっちの家で読んだモンスターの図鑑で見たことありましたから。沼の中からごく稀に現れ、水の魔術師にとってはオーガよりも手強いって……」
なるほど、魔法を撃つのに一瞬戸惑ったのは水の魔法が効果が薄い事を知っていたからか。このパーティーにとっては相性の悪い相手だった訳だ。
「これからはなるべく沼地を避けよう。またあんな助けが入るとは限らないし……」
「ああ、この辺でウェアウルフ探してても充分じゃん」
「確かに安全策を取るならそれがいいですね」
方向性は決まった。同じ轍は踏まないように逃げる算段もしておく。と言ってもさっきと変わらず、俺が殿で柊がニジエを守りながら逃がす。この程度だが、先に決めておくだけとっさの時には違うだろう。ふとニジエに聞いてみたいことができた、グリゴリさんのように魔法の網と言うのを使えたら便利だろと考えたからだ。
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