夢d-6
「こうやって助けるのは2度目だね」
そう言われて思い出す。この人は初日にゴブリンの群れから助けてくれたあの人だ。
「あの時とは違うみたいね。今回は運が悪かったかな?」
そう言うと横を通り、細長い滑った髭を手に取り俺に手渡す。
「はい、スワンプトロールの髭。結構レアなんだよ」
「あの、ありがとうございます。俺、助けてもらっただけで充分です。こんなものなんていただけません」
「いいのいいの、どうせ私はこれくらいいつでも取れるから。好意は有難く受け取っておきなさい」
そう言われ俺はスワンプトロールの髭を道具袋にしまう。今なら解るが、あれは火を圧縮して撃ちだす魔法だ。しかも高レベルの。こんな魔術師が何故ここにいるのだろうか?
「あの時と今回、助かりました。俺はタツヤと言います失礼でなければお名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」
驚く自分を抑え、なんとか挨拶の言葉を振り絞る。目の前の女性魔術師は髪をいじりながら考えるようにした後、
「そうね、私は……グリゴリとでも呼んでもらおうかしら」
女性にしては随分ゴツイ名前だなと失礼なことを思いながらも、慌てて気が付く。
「すみません、グリゴリさん。俺、先に逃がした仲間に追いつかないと」
「それなら大丈夫。ここから歩いて20分もしないところに隠れてるから。運良く他のモンスターと出会わなかったみたいよ」
なんでそんなころまで解るんだろうと考えていると顔に出ていたのか、グリゴリさんは答える。
「魔法の網を森中に張り巡らせているからね。この森にある熱で私に感知できないものはないわ」
そんな使い方までできるのか、ニジエの時も驚いたがこの人は年季が違うと言った所だろうか。しかし、今回は顔に出て無い筈なのにグリゴリさんは答える。
「女性に対して年季なんて使っちゃダメよ。もっとも私は女性に見えるだけだけど」
こちらの心を読むように答える。しかし女性に見えるだけとはどんな意味だろう?
「そんな事より重要な話がしたくて貴方に会いに来たの。最初に会ったときは弱いからそれを憐れんであんな顔したんじゃないのよ」
じゃあ、なぜあんな顔したんだろう? 助けられたことも忘れ疑問が深まる。何より心が読まれている。
「色々、疑問があるとは思うけど一つづつにしてね。まず、あの時はこちらに来てしまったことが悲しかったの。また来ちゃったのかってね。あの時見殺しにすることも出来たんだけど、貴方ならもしかしたらと思ってね」
何がもしかしたらなのだろう?
「それは答えられないの。あのクルス君って子のがずっと強いんだけど、それとは別の強さが必要になるから……」
俺があの来栖先輩と比べて強い? どこがだ? メンタル、フィジカルどちらも敵わない気がするが?
「心配ないの。貴方は本来何者でも無い存在だから、何者にもなれる。唯一のワイルドカードなの。今、貴方達の世界で広がりつつある魔法円に組み込まれさえしなければ最後の切り札になれるわ」
この人は現実世界のことを知ってる! しかし魔法円とはどういう意味だろうか?
「そろそろ私は行くわ。最後に約束して。今の事を決して忘れないということを」
一体何を約束すればいいのだろうか? 切り札のこと? それとも魔法円のこと?
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