夢d-5

 それからはパターンに入ったとでも言えばいいのだろうか? ニジエが魔法を撃ち、俺が切り込む。たまに出てくるハウンドは柊が一蹴りで片付け、増援にはニジエの水大砲で対処。パーティーの歯車がここまで上手くハマると闘いやすさはここまで違うのか。最初にウェアウルフと闘った時の事を思い出す。なるほど、1人で闘うのと仲間がいるのでは雲泥の差だ。マスターの指摘はここまで正しいとは。流石に今まで数百の冒険者を見てきただけはある。今は仲間の重要性がよく解った。


 俺達はウェアウルフを狩り続けどんどん森の奥深くに入って行く。気づけば後もう3本で依頼達成だ。ニジエはまだ集中力に余裕があるという。そろそろ帰り道で狩れば依頼は問題無く済みそうだ。かなり奥深く入ってしまったのか沼が見える奥地に来てしまったようだ。流石にこれは深いりし過ぎだろうと、引き返そうとした瞬間何か大きな物が沼から凄い速度で這い出てきた。


 なんだこいつは。3m近い体高に緑色のぬめぬめした肌、前にせり出した鼻に水棲生物の触手を思わせる長い髭。そして視野が広いであろう真横に付いた大きな目。極め付けはその体格に合うような粗末だが大きな斧。こんな化け物聞いたことも無い。だがこちらをギョロギョロと大きな目で確認しているとこから逃がしてくれそうな気配は無かった。


「スワンプトロール……」


 ニジエの口から言葉が漏れる。そんな名前のモンスターなのか? しかしチュレアの森にこんなのが出るなんて聞いたことが無い。いや、そんなこと考える前にこちらから攻めてみよう。初見のモンスターに先手を取るのは危険だが、今はニジエの魔法がある。それならば一方的に攻めることが出来るだろう。


「ニジエ、水の大砲撃って。俺と柊は2人で守りを固めるから」

「でも……。解りました。撃ちます!」


 ドンっといつもの勢いでニジエの魔法が撃ちだされる。スワンプトロールの巨体に見事に命中したが、数歩後ずさるだけで殆ど効果は無いようだ。こっちの切り札なのに効かないなんて。どうしたらいいんだこんな化け物。俺の剣はあくまでコボルトやウェアウルフといった人間サイズに対抗できる程度だし、柊のにわか仕込みの蹴りが通用する相手にも見えない。こんなモンスターがいたら、マスターが警告してくれる筈なのに……。


 余計なことを考えてる暇は無い。動きはとろそうに見える。逃げる方法を考えた方が良さそうだ。

 その瞬間、スワンプトロールは斧を持ちながら四足歩行で素早くこちらに駆けて、近づいたと思ったらいきなり立ち上がり無造作に斧を振るった。木の割れるような音がすると近くの木が倒れる。見た目である程度の予想はついたが、コイツはヤバい攻撃力を持っている。俺の鎧くらい紙を破るのと変わらないだろう。剣で防ごうものならそのまま剣ごと粉砕されてしまうに違いない。こちらの強味は数だが、それすらもアテにはならないだろう。

 再び斧を降り被った刹那、全員バックステップの要領で距離をとる。


「柊はニジエを連れて逃げろ! 俺はその後別方向に逃げる!」


 チームワークにおける逃げ方まで考えて無かったのは痛かった。そもそもこんな相手予想外過ぎる。とにかく防御の薄い2人を逃がすのが先決だ。俺の装備なら場合によっては助かるかもしれない。楽観視しすぎかもしれないが、今は1番闘い慣れてる俺が殿に着くしかなさそうだ。

 2撃目が来る。コイツの攻撃は事前のモーションが遅いせいか、辛うじて攻撃の軌跡を予想して避けることはできる。もっともこれ以上高度な攻撃をされたらあの世行き決定だ。紙一重でかわす、こちらは反撃の隙一つ狙えない。当たれば即死という恐怖がここまで自分をすくませるとは思いもしなかった。ウェアウルフの時も危なかったがコイツは圧力が違う。後ろを見せるのさえ恐ろしくて出来ない。こんなのどうすりゃいいんだよ。

 このままではこちらは消耗していくだけだ。せめて一太刀浴びせれば状況は変わるかもしれない。そう考え、次の一撃の瞬間、脇をすり抜けるように横一文字の一撃を入れる。しかしコイツの身体妙に滑ってるせいか、それとも俺の腰が引けてたのか浅い当たりしか感じなかった。脇腹から少量の流血が見えるが、身体の大きさのせいか殆どダメージにはなってない。今の感覚からしてクリティカルヒットを連発しても倒せるイメージがわかない。横目に確認すると柊もニジエもいない。どうやら俺の真意をくみ取って逃げてくれたらしい。あの2人のことだから躊躇して逃げない可能性も考えたがどうやら従ってくれたようだ。そんな思案を他所にまた斧が振り上げられる。また脇をすり抜けるかと動こうとすると、 


「伏せて!」


 後ろから大声で命令される、俺は即座にその声に従い瞬時にその場で身を伏せる。その言葉には有無を言わせぬ迫力があった。瞬きも許さぬ速度で閃光が頭の上を走り、ついで爆発音と焦げる匂いが立ち込める。目の前にいたスワンプトロールは一撃で爆散したようだ。振り返ると金色の長髪を揺らし、黒いローブ姿に金属製で紋様が刻まれた杖を持った魔術師の女性が立っていた。

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