夢l-6
「マズいわねアレは【シーサーペント】よ。ここまで大きいなんて予想外だったわ」
かなり遠くからでもハッキリと分かる姿、さっき戦った蛇の何倍だろうか? 凄い速度でこちらに近づいてくる。
「普通は海の真ん中で船を沈める化け物なのに。こんな浅瀬に来るなんてやっぱり異常なのね」
皆、頭を切り替える。その中、ニジエが何かに気付いたようだ。
「シーサーペントだけじゃありません。その頭に人間くらいの大きさの何かがいます」
敵は1匹じゃないのか? シーサーペントの頭がこちらに近づいて来た。頭だけで俺達全員を丸呑みできそうだ。こんなデカい敵に剣が通じるのだろうか? 大きな波を起こしながら身体を翻す。その瞬間、背中に銀髪で三又の矛を持った美女が見えた。下半身が見えないが、恐らくあれがマーメイドだろう。コイツがシーサーペントを操っているのだろうか。ひと際大きな波しぶきが上がる。尻尾を叩きつけて来たのだ。
「陽菜、気後れしないで。あれだけ大きいなら斬れる場所はいくらでもあるでしょ」
確かにそうだ。しかし、直接斬るのはリスクが高すぎる。波に飲まれかねない。ここは飛ぶ剣閃で斬りつけよう。全力で剣を振るう。しかし水に邪魔されてか、相手の身体に軽い傷を付けるのがやっとだ。これじゃあ、俺がばてるのが先になりそうだ。
「ニジエ、何か支援の魔法ない? 海を操って一時的に水を干上がらせるとか」
「ダメです。海は大きすぎます。更にマーメイドが先に支配権を持ってるようで、引っ張りあいになったら、多分負けちゃいます」
いよいよもって打つ手が無くなりそうだ。シーサーペントはまた頭を向けてこちらに迫る。真正面からぶった斬りたいところだが、それより丸のみにされる可能性が高そうだ。
「うらぁ!」
大きく開いていた口が跳ね上げられる。柊が下顎に蹴りを加えたようだ。チャンスだ。駆けつけ、渾身の力で首を落としにかかる。だが、川程の太さもある首には大きな傷をつけられても、切り落とすには至らなかった。分厚い鱗と独特のヌメリが剣先を狂わすのだ。
不意に美しい歌声が聞こえる。目の前には古城の時に似たうす青い靄が迫って来る。急いで剣を翻し、斬り払う。マーメイドが操ろうとしているのか?
「気をつけて下さい。アレは幻覚だけじゃありません」
「陽菜、柊、急いで引いて、シーサーペントに巻き込まれるわよ」
新堂の指揮に従い、一旦引く。あれ? 靄が見当違いの方に飛んでるぞ。砂に吸い込まれるように靄が消えると、そこからガーゴイルがせり上がってきた。コイツこうやってガーゴイルを作っていたのか。
「ガーゴイルの相手は私がするわ。陽菜と柊はシーサーペントに集中、ニジエはこの状況で何とか魔法を作りだして」
「陽、俺が蹴るから、同じ部分を斬ってくれ。多分それしか深手を与える方法が無い」
なるほど、叩いて柔らかくしてから斬るか。なんだか料理みたいだ。
「柊、次に突っ込んで来た時合わせるぞ」
「任せろじゃん。合図は俺がするから、合わせて欲しいじゃん」
だが、マーメイドはそれを許さないかのように遠くから歌声を放ってくる。これは切り落とさなければ新堂の負担が増してしまう。戦術士の支援効果が切れるのはかなりマズイ。ただでさえ敵は巨大なのだから。後ろから話し声が聞こえてくる。
「私があの歌を打ち消しますから。香苗さんは指揮をお願いします」
「分かったわ。それと隙を見てマーメイドに攻撃魔法を当ててみてくれない?」
「相手も水の属性だと打ち消されてしまうかもしれませんが……」
マズイ、新堂はまだ属性の相性の悪さを把握してない。そんなことを考える間もなく次の攻撃がやってきた。
「おぉぉぉ! シュート!」
柊の渾身の蹴りがまた下顎を打ち上げる。俺は無防備な首に一撃を見舞う。ダメか、致命傷には程遠い。
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