現実k-4

「どうして走る必要があるんだ? まだ揉めてたみたいだけど」

「なんだか変な誤解が蔓延してるのよ。私が陽菜以外の男に色目使ったとか」

「なんだそれ? そんなことしてたのか?」

「するわけないでしょ。でも、女子も男子も昨日まで仲良かったのに、みんな嫉妬に狂ったみたい」


 その言葉ではっと気付く。


「それか。みんなおかしくなった訳は」

「なにがよ?」

「この前、購買部で売り切れたり、学食でみんなやたら食欲が上がった時期があったんだ」

「ああ、みぃ子ダイエットやめたことあったわね」

「これ、暴食の封印解除と時期が重なるんだ」

「その後は?」

「確か、色欲だったと思う。カップルばっか目にするようになったのもこの封印解除だ」

「あれは覚えてるわ。やたらラブレターもらったからね」

「そして、昨日、嫉妬の封印解除が行われて……」

「みんな嫉妬に狂ってるって訳?」

「偶然にしては時期が重なり過ぎてるんだ」

「ちょっと待ちなさいよ。解除された封印は4つでしょ。暴食、色欲、嫉妬、足りないじゃない」

「最初の頃はここまで極端じゃなかっただろ? 暴食の封印解除の後も食べる量がみんな増えたなくらいでさ」

「最初の封印は強欲だったっかしら?」

「そうだ。恐らくはこの頃からアーマゲドンオンラインは凄い勢いでプレイヤーが増えていったはずだ」

「なら、残りの封印解除がされるとその通りの悪徳が蔓延する訳?」

「もう、疑いようがない。調べてみる」


 検索エンジンで7つの大罪について検索すると様々な情報が出て来た。順番はバラバラだがどのサイトにも色欲、暴食、強欲、怠惰、嫉妬、憤怒、傲慢この7つか。残すは怠惰、憤怒、傲慢の封印になる。ご丁寧に7つの大罪に合わせた化け物も書いてある。


「なんだか、この組み合わせをやたら効率良く解いてるみたいね」

「まずは強欲で煽って、暴食で食わせて、色欲でカップル作らせて、嫉妬で喧嘩させてるのか」

「もしそうなら、次はどの封印かしらね」

「このまま憤怒の封印が解除されたら最悪、殺し合いが始まりかねないな」

「確か、アーマゲドンオンラインの公式サイトがあったわよね。そこに書いてない?」


 そうだ、そこなら確かな情報が乗せられているはずだ。しかしそこには、無情な一文が載せられていた。


「セブンスサイン会員専用サイト? アーマゲドンオンラインの登録IDを入力して下さいだと?」

「何それ、そこって前から会員専用サイトだったの?」

「前は違ったんだ。誰でも見られたのに」

「関連掲示板はどう?」

「ダメだ。みんな会員以外秘密にしてるみたいだ」

「知り合いに聞いてみたら?」

「それだ! お互いにアーマゲドンオンラインやってる知り合いに聞こう」


 いつもなら親しい悠紀夫に聞きたいが、今日絶交を言い渡されたばかりだ。ここはノリに聞こう。ノリにメッセージを送る。次ってどの封印が解除されるの? と。しかし帰ってきた返信は酷いものだった。

 裏切り者なんかに教えるかよ。バーカだと。いつ何を裏切ったというのだ?


「こっちはダメ、みんな私を泥棒猫扱いしてるわ。何も教えてくれないみたい」

「俺は裏切り者扱いだ。何も裏切ってなんていないのに」

「恐らく、これが狙いなんじゃない? 疑心暗鬼にしてアーマゲドンオンラインに誘導する」

「新堂、ここはお互い、別れた事にしよう。そうすれば裏切り者扱いされないかもしれない」


 これはいい案だと思う。しかし、新堂はそれを却下した。


「ダメよ。相手の次の狙いは恐らく、余った人間達を分裂させて勢力を削ぐことかもしれない。私達は逆に結束すべきよ」

「そうかもしれないが、恋人ごっこは終わりにしても結束が破れる訳じゃ無いだろ?」

「かもしれない。でもシャクなのよ。相手の掌で踊らされるのはね」


 新堂らしくない意見だ。今まではなりふり構わないはずだったのに。


「新堂、ここは変なことにこだわってる場合じゃない。敵には常に先手をうたれてるんだ。ここは俺達は別れたことにすべきだ」

「でも、それだと敵の狙い通りよ」

「2人共熱くなりすぎじゃないか」


 そこには左手に竹刀をもった来栖先輩の姿が。


「来栖先輩は分かってると思いますが、今、俺達は敵の術中にいます。ここは俺と新堂は別れた事にすべきです」

「うん、俺もそう思う。敵にこちらは油断してると見せかけるべきだと思うよ。でもすまないが、ここは香苗に付き合ってやってくれないかな?」

「なぜですか」

「香苗、本音ではもういっぱいいっぱいなんだろ?」


 意外な一言、新堂は追い詰められていたのか?


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