現実e-2
「スマホ版サービスが始まったから、そのお祝い的な感じで早めなんじゃないのか? どちらにしろ俺は嬉しいね。今度もまたあの感覚が味わえるなんて」
またそれか。きっと美弥子も同じようなことを語り出すに違いない。1度は関係無いと判断したが、何故かアーマゲドンオンラインと夢の世界が関係しているような気がする。これもグリゴリさんの言ったことだけで何の根拠も無いが。それにしても今日は随分学食の列が長い。ノリの話によれば購買部は売り切れだと言う。なんだってそんなにみんな腹ペコなんだ?
そんな話をしていると大柄な人が近づいてくる。あれは本条先輩だ。
「柊、ついでに達哉、貴様ら食が進んでおらんな。特別にこれをやろう。トレーニング後は必ず飲むようにしろ」
ドサリと置かれたのは銀色のアルミパックに『スーパープレミアムプロテイン1kg』と書かれた袋が2袋だった。
「俺も毎日飲んでいる。よく効くぞ、いいな。必ず飲めよ。特に柊、放課後部室に来いよ」
それだけ言うと本条先輩は学食の列に並ぶ。見ていたノリと悠紀夫は顔が青ざめていた。ノリが口を動かす。
「おい、柊、お前モテな過ぎて空手部に入ったのか?」
お気に入りのA定食を食べながら柊が答える。
「ああ、成り行きでだけど、サッカー部の時よりか実があるかもな」
ノリは震えながら言う。
「お前、アソコがどんな部だか理解してないな」
「ん? 普通に空手部だろ。今朝行った時に新品の道着が用意されてたし、キツイこと除けばいいとこじゃん」
「いーや、お前は理解してない。ウチの空手部は入部するとやめる方法が2つしかない」
「2つもあれば充分なんじゃないのか?」
「その2つはな、死ぬか退学するかだぞ」
二択がおかしい。どうやら柊は修羅の門をくぐってしまったようだ。もっとも俺も人の事言えないが。放課後の新堂との特訓を考えるとげんなりする。今日も竹刀で打たれるのかな。右手のミミズ腫れに気付いたのか、悠紀夫が叫ぶ。
「陽、まさかお前もか?」
「俺は違うよ。ある意味近いけど空手部じゃない」
できうる限り本条先輩には近づかないでおこう。これ以上厄介ごとを押し付けられては堪らない。
騒がしい昼休みを終えると。また授業だ。放課後の特訓に体力を温存する為、ゆっくり休んでおくとしよう。
放課後、演劇部の練習場に行くと新堂が竹刀を2本持ち待っていた。
「遅い! やる気あるの?」
「そっちが早いんだよ。これでもホームルーム終えて最速で来たんだがな」
コイツはどんな速度で来たんだ? 同じクラスなのに全く気付かなかった。気にしても仕方ないか。どうせ新堂のことだし、言えばまた速さが違うとでも言われるんだろう。
ペットボトル体操の後、竹刀をもち昨日のように打ち込み稽古に励む。100本終えた所で本題に入る。
「なあ、これって人間大の相手に対する技術だよな?」
「そうよ。アンタはまずそれから」
「たとえ話なんだけどもっと大きい相手に対する技とかない?」
「剣道には無いわね。アンタ、オーガでも相手にするつもり? 今の武器と腕じゃ死ぬわよ」
「いや、もっと獣っぽいようなデカい敵」
「なにそれ? そんなのいたかしら?」
やっぱりそうか。剣道の技術である以上ライオン相手の技はありえないという事か。
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