現実g-3

「やっぱ、俺らも高校生な訳だし、彼女欲しくならないか? 憧れるわアッチの初体験とか」


 恋人は2次元と言っていたノリがそんなこと言うとは。どうなってんだ?


「お前、アニメのマミさんがどうとか言ってたじゃないか。それはいいのか?」

「それはそれ、今は触れる相手が欲しいね」


 こいつらまで彼女か、ノリに至っては不可能と思われたダイエットまでして。悠紀夫が柊に話をふる。


「柊も彼女欲しいよな」


 柊は手を止めギョッとした表情でこぼす。


「女なんて金がかかるばかりでいい事ないじゃん」


 コイツ、レベッカの件で女性不信になりかけてるのか。解らなくも無い。あれだけ買わされた挙句、名前もまともに覚えられていないのだ。学食中どこもかしこもカップルだらけで嫌になる。こんな日は早く虹江と会いたいな。そう思ってると学食の扉から駆け足で誰かが近づいてくる。新堂だ。アイツ今頃校舎裏じゃなかったのか?


「陽菜、昨日奢らなかったでしょ。その分、今助けなさい」


 青銅の蹄でのことか。しかしコイツが俺に助けろとはなんのことだ? 嫌な予感しかしない。学食の扉の前には人だかりができ、その中でひと際目立つ人が居た。あの空手着に巨躯、間違いない、本条先輩だ。しかし何で昼休みに空手着なんだ? 手には花壇で抜いたのかパンジーが握られている。


「カナちゃん、俺の話を真剣に聞いて欲しい。この本条勝、本気の試合としてカナちゃんに話しに来た。この花の花言葉は私を思って下さいだ。俺と本気で交際してほしい」


 本条先輩は片膝で新堂に色とりどりのパンジーを差し出す。この空手着は本気の証か。色々ずれてる気がする。学食中の視線はこちらに集まっていた。みんなどんな答えか気になるのだろう。俺には大体予想がついた。


「勝さん、ごめんなさい」

「な、何、もう心に決めた相手でもいるのか!」

「いや、私コイツの相手するのに忙しいから」


 俺を指さす。助けろとはこういう事か。しかし相手が本条先輩とは盾になることも出来やしない。


「達哉! 貴様! 特訓と称してまさかカナちゃんと放課後に、桃色遊戯に浸っているのではあるまいな!」


 桃色遊戯ってなんだよ。いつの時代の言葉だ。今度はこちらに視線が集まる。本条先輩の視線は殺気すら放っている。俺は正直に話す他無い。


「俺は打ち込みの稽古しかしてません。本条先輩の心配するようなやましいことは何一つしてませんよ」

「ならばいいが、カナちゃんに指1本でも触れてみろ。この本条勝、全力で貴様を血祭にあげてやろう」


 目がマジだ。何かあったらただごとでは済みそうにない。


「大丈夫よ。何も無いから。それに誰と付き合おうと私の勝手よ。勝さんもその花どっか持って行って。ね」


 新堂が言うと途端に本条先輩はうなだれ、花を握りつぶし学食から出て行った。その背中は小さく哀愁すら漂っている。


「新堂、お前こんなことに巻き込むなよ。殺されるかと思ったじゃないか」

「別にこれくらいいいでしょ、減るもんじゃないし。これで借りを返したことにしてあげるんだから、感謝しなさい」

「俺の寿命は減るどころか無くなるとこだったぞ。本条先輩とのことは巻き込まないでくれ」


 本当に死を感じた。あれはケルベロスなんかよりよっぽど恐ろしい。生きた心地がしないとはまさにこのことだ。こっちの気も知らずか悠紀夫が話しかけてくる。


「おい、陽、お前新堂と放課後何やってるんだ? 特訓って何の話だ?」


 また面倒な話になってきた、ここは嘘で誤魔化すしかない。


「ほら、俺、演劇部だろ、それの殺陣の練習に付き合ってもらってるんだよ」

「演劇部で殺陣? あそこまともに活動してないだろ」


 嫌なツッコミを入れてくる。


「あんまり活動してないと廃部になりかねないからな。俺が頑張ってるんだよ」

「ついでに私も演劇部に入ったわ。文化部だから剣道部と両方入っても問題ないしね」


 初耳だった。コイツこんなことしてたのか。もっとも自然に一緒にいられるのは有難いが。フォローしとくか。

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