夢e-4

「格闘士の服かい。ウチは魔法具屋なんだがね」

「なんかあればいいかなって感じなんすが」

「仕方ないね、ちょっと待ってなよ」


 そういうと老婆は只のクロースにインクで紋様を描き始め、終わるとさっきと同じように魔法をかける。


「只のクロースに防護のエンチャントをかけておいたよウチではこんなもんしかないね。お代は300オーロってとこかね」

「エンチャントってそんなにするんすか?」

「馬鹿にしたもんじゃないよ。これでも並みの革鎧くらいの防御力はあるからね。格闘士なら避けるなりなんなり方法はあるだろう」


 柊は微妙に納得いかなそうに300オーロを支払う。老婆は奥で着替えてきなというと柊は店の奥に消えて行った。ニジエはその場でローブを着替えると驚いた顔をした。


「このローブ魔法を伝導させることが出来るみたいです。確かにこれなら炎を防げるかも」


 そんな効果もあるのか。奥から着替えた柊が出てくると何だか嬉しそうな顔をしている。


「どうしたんだ? それそんなに気に入ったん?」

「ああ、着替えたら婆さんにハンマーで腹をいきなり殴られたんだけど殆ど衝撃が来なかったんだ。良い買い物だったじゃん」


 あの細腕でどれだけの力が出るのか謎だがある程度の防御力はあるようだ。


「そっちのお嬢ちゃんはもう使い方を解ったみたいだね。後は魔法が上手くなれば水の鎧だって作れるようになるさ」


 なるほど、本人の能力に依存するのが魔法具たる所以なのか。確かに解らなければ高い布製品を買わされたと思ってしまうだろう。

 何はともあれこれで3人共防御の面では大幅にパワーアップだ。改めて青銅の蹄に向かおう。

 ギルドハウスに着き掲示板を見るとあらかた依頼は取られていた。


「う~ん、今日は依頼受けずに、装備のテストに行こうか? ドロップ品を売れば夕飯代くらいにはなるし」

「このゴブリンの布20枚納品、報酬250オーロって丁度良さそうじゃん」

「多分受けさせて貰えないだろうな。俺達はもうウェアウルフクラスのパーティーだしなぁ」


 掲示板の前であーでもないこーでもないと言っていると不意にマスターから声をかけられる。


「お前ら、そろそろ遠征でもしてみたらどうだ? 丁度、北のバルナウルの街から救援依頼が来てるんだ。まだこの前の襲撃の後始末に手こずってるらしい。向こうには青銅の蹄の支部があるからこちらから救援を出したいんだ。食費、宿泊費、移動費はギルド持ちで更に遠征報酬と向こうでの討伐報酬も出る。どうだ?」

「具体的にいくらくらいになりそうなんだい?」

「向こうでの討伐報酬次第だが、帰ってくれば1人2000オーロにはまずなるだろうな」


 1人2000オーロ! 随分太っ腹な依頼だ。しかし不安はある。


「向こうのモンスターの分布はどうなんだ?」

「ここよりも手強いぞ。まずトロールがウェアウルフの代わりに出てくる。とは言ってもスワンプトロールみたいな化けもんじゃないがな。1番ヤバくてワイバーンだな。コイツに会ったらお前達じゃ逃げるしかないだろう」


 危険はやはりあるか。だが正直行ってみたくはある。しかし、遠征となるとニジエが問題だ。


「いや、遠征はやめておくよ。外泊出来ない仲間もいるし」

「私なら大丈夫ですよ。兄さんはしばらく帰りませんし、家には言伝してくればいいだけですから」


 これまた意外な言葉だ。今日のニジエは随分アグレッシブだな。


「それなら受けてみてもいいんじゃん。武器を一気に買い換えるチャンスじゃん」


 確かにそうだ。この2000オーロあればレギンスとサムライロングソードが両方買えるかも知れない。


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