現実b-3
「おい、そろそろ休み時間終わるぞ」
ああ、もうそんな時間か食器プレートを片付けながら、随分、学食に長居してしまったななどと考えつつ、これから午後の授業に対しいかに眠らず済ませるか大きな課題を考えていた、しかし気になるのが柊も同じ夢をみていた点だ。同じ夢を見る。そんな事ありえるのだろうか? 一番気になったのは【オーロ】という通貨を口にしたことだ。他のゲームでも聞いたことが無く、何より新米は毛皮3枚、これも同じ点だ。ダメだ、考えても答えは変わらない。柊はあの世界に来ている、夢の中でだが。
確かタラントの村にいると言っていた。今夜はそこを目指してみようマスターに聞けば場所は教えてくれるはずだ。そんな事を考えて午後の授業は過ごした。ノートは知り合いに移させてもらおう。
帰り道、今日は悠紀夫と則夫は先に帰ってしまった。今夜のゲームのイベントの為に早めに帰ってしまい、柊と2人きりの下校になってしまった。ここは突っ込んで話をしてみるべきか、少し迷ったが。いっそ気にしたままでは身体に悪そうだ。話してみよう。
「なあ、柊、夢の話なんだが実は俺も見たんだ」
「ん? 何の?」
「いや、お前昼飯の時に犬と闘う夢見たっていってたじゃん」
「ああ、でも夢だろ? 確かにリアリティはあったけど所詮夢だしな」
「いや、俺も同じ夢見たんだよ。15日くらい前からだけど、昨日、ウェアウルフに殺されかけたんだ」
「お前、何言ってんだ? ウェアウルフ? ゲームのやりすぎだろ」
「いや、本当にいるんだって、いいか、取りあえず装備を整えるまで村から遠出するなよ。マジで死にかけるからな」
「……お前、本当に大丈夫か?」
「心配するなタラントまで俺が迎えにいくから、それまで粘れよ」
疑いの眼差しを向けられながら駅前まで歩くとそこで別れ、いつもの改札へと向かうと昨日見た白杖をもった女性がうろうろしていた、まだそれほど日差しが強くないせいかサングラスが目立つ。横を通り過ぎようとした時、彼女は小さな声でこう言った。
「鳥の香草焼き残念でしたね」
えっ!! っと振り向くと彼女は既にツカツカと住宅街の方に消えて行った。まさかあの子も……
そんな馬鹿なあれはニジエとの話だったはずだ、なぜあの子が? 考えても仕方がない、もし今日の夢で会うことがあったなら聞いてみるしかない。なんだか自分の知らない何かが動き出しているようだった。今日の電車はあまり混まずに帰れたいつもこうならいいんだが。
「ただいま~」
家に帰ると返事が無い。母さんは夕飯の買い出しに出かけているのだろうか? しかし美弥子の返事がないのはおかしい。鍵はかかってないのだから家には必ず誰かいるはずだ。ましてや美弥子は帰宅部だ。家に入り、美弥子の部屋のドアをノックすると返事がない。もしかしたらと考え、思い切ってドアを開けると、そこにはヘッドホンを付けベッドに寝転んでゲームをしている美弥子が。
気が抜けると同時に怒りが沸いてズカズカと部屋に入る。美弥子は気づかない。ヘッドホンを無理矢理取り上げ怒鳴るようにいう。
「た・だ・い・ま!!」
美弥子はびっくりして飛び起きるとばつが悪そうに、
「お、おかえりあにぃ……帰ってたんだ……てっきり友達と遊んでくるのかと……って乙女の部屋に勝手に入ってくるなんて常識ないよ!」
「俺のノートパソコン使いっぱで徹夜してるバカ者に常識を語る権利など無い! ほらさっさと返せ!」
「ま、待ってよおにぃ、今日イベントがあるんだよ。お願いだから明日まで待ってよ」
「それ夜の1時からだろう。夜更かししない約束だぞ。てなわけで没収!」
「そんなぁ~、みんなやるって言ってるんだよ。可愛い妹が流行に乗り遅れてイジメられたらどうするのよ」
「知るか!約束守らないお前が悪い!」
「ヒドイっ!ひどすぎるよっ!あにぃお願いだからぁ~」
ここで甘い顔すれば調子に乗るに決まってる。心を鬼にしてノートパソコンを取り上げ部屋に戻る。昨日の失敗を繰り返さないように部屋着に着替えると宿題を片付ける。大した問題じゃないのですぐに終わり、ちょっと気になってノートパソコンでアーマゲドンオンラインについて調べると、検索エンジンのトップにアーマゲドンオンラインのページが上がっている。その文字をダブルクリックすると赤い六芒星(ろくぼうせい)の点の部分が閉じた5つの眼になっており、右上の眼だけが開いている。左下の眼はやや開きかけだこれが封印というわけか。
しかしおかしい。確か則夫は『七つの大罪の封印』と言っていたはずだ。1つ眼が足りない気がする。何か隠してあるのか? 内容はキリスト教の七つの大罪に対する説明やゲームの操作説明や選べる職種などだ。メイン職の他にサブ職も選べてメイン職のみを選ぶと特化型になり、サブ職を追加すると色々できる反面、メイン職の能力は劣るようだ。見てるとゲーマーの血が騒ぎ、やってみたくなるが、母さんの帰宅に気づき急いで風呂の準備をする。入浴剤の種類を決めるのは風呂の準備をした者の特権だ。季節はずれだが今日はゆず湯の気分なのだ。案の定一番風呂は気持ちがいい。なんだかこの柑橘類の香りに包まれるとさっきまでの怒りがどうでもよくなりそうだ。
風呂から上がると鮭のムニエルが食卓に並んでいた。夢の世界では肉ばかり食べていたせいか魚はなんとなく久しぶりな気がする。レモンの香りとバターの香りが相まって食欲をそそる。味は案の定美味かった。歯を磨いて部屋に向かいベッドに寝転がると急に眠気がやってきた。
柊のことと、ニジエのことを確かめなければ。そんな事を考えながら眠りについた。
―――今夜は確かめる為に夢を見る―――
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