―――夢c
夢c-1
今日も番犬のねぐら亭で目を覚まし、装備を身につけ宿を出る。まずはギルドに顔をだし、ニジエが来てるか確かめる為だ。今日は昨日の幸運のおかげか特に稼ぐ必要はない。1日くらい依頼を受けなくても問題なさそうだ。朝市を通る時、前に気になった桃2個を1オーロで買い果汁が溢れる実を齧りつつ歩いていれば、すぐ青銅の蹄が見えてきた。マスターのコリンという名前を不意に思い出し、扉の前で思い出し笑いしていると、通りすがりの冒険者に変な顔で見られているのに気づいて、表情を正し扉を開ける。
「いらっしゃい、今日はウェアウルフにリベンジといくかい?」
「いや、当分よしとくよ。それよりニジエは来てないかい?」
「おっ、自信過剰の次は色ボケか? まあ、それくらいは構わねぇが、今日はまだ来てないな。しかしあの子は貴族街の出だぜ、茨の道すぎねぇか?」
「そういう意味じゃないよ。ちょっと確かめたいことがあるんだ」
「そうか、ま、うちは1杯頼んでくれりゃ昼は何時間粘っても構わねぇよ」
ぞろぞろと冒険者が店に集まってくる時間が来る。俺はオレンジジュースを頼み、その中にニジエがいないか確認する。魔術師は珍しいから目立つはずだ。
白いローブに身を包み、木の杖を手にした魔術師が入ってきた。間違いないニジエだ。俺は色々聞きたい衝動を抑え、気さくに声をかける。
「よう、ニジエ、また抜け出してきたのか?」
俺は至って平静を装う。
「ええ、今日は兄さんが領主様に呼ばれているようなので、早めに出て来れました」
「随分立派なお兄さんなんだね。抜け出して大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。領主様に呼ばれた日は翌日の朝方に帰りますから」
その言葉を聞き、マスターはうまくやれよと言わんばかりの目線をむける。そんな意味じゃないと心で反論する。
「あの、ちょっと聞きたいんだけど……」
「ハイなんでしょう?」
言葉につまる、だが勇気を出して……。
「鶴見駅で会わなかった?」
言ってしまった……。間違ってたらどうしよう……。しかしニジエの口からは、
「ええ、一言だけ通りすがりですけど気づきましたか?」
という台詞が出た。
なんだって? やはりあれは聞き違いじゃなかったのか? しかしまだ疑問が出てくる。
「言いづらいんだけどニジエ、白杖ついてたよね。目が悪いんじゃ?」
「はい、生まれてこの世界に来るまで真っ暗でした。でも貴方だけが見えたんです。不思議ですね」
あっけらかんと凄いカミングアウトをしてくれる。
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