夢c-2

「でもこの世界では普通に物が見えるんです。最初の10日間は兄さんにつきっきりで文字を習いながら、本ばかり読んでましたよ」


 まさに箱入り娘だ。しかし何不自由無いのに何故冒険者なんかに?


「気になるんだけど、お金に困らないなら冒険者なんてする必要ないんじゃないか?」


 ニジエは少しうつむくと決意したように言った。


「私、生まれてずっと与えられてきたんです。だから自分でつかみとる何かが欲しいんです」

「何かって?」

「昨日手に入れた40オーロや初めて見た外の景色、本で読んだだけじゃ何も見えて無い。あの頃と変わらないんです」


 どうやら箱入り娘の好奇心ではないらしい。彼女の目からは並々ならぬ決意を感じた。


「そうなんだ……しかしおかしな話だね。夢の世界で現実の知り合いに会うとは……」


 そうつぶやいて思い出した。そういえば、柊もこっちに来ている可能性があるんだ。すかさずマスターに声をかける。


「マスター、タラントの村って知ってる?」

「ああ、ここから南にアバダン平原をぬけてすぐにあるアハブ領の小さな村だな。大した名産品もないが、交易での宿場町としてはそこそこ賑わってるみたいだぜ」


アバダン平原から南か……チュレアの森のウェアウルフを思い出す。そんな俺の表情を察してかマスターは続ける。


「心配しなくてもチュレアの森には近づかないルートがあるから安心していいぞ。何か用事でもあるのか?」

「もしかしたら知り合いがいるかもしれないんだ」


 ニジエは少し驚いたような顔をし、小声で聞いてくる。


「え、もしかして、その人も現実の知り合いなんですか?」

「確証はないけどそうだと思う。学校の同級生なんだけどオーロが通貨って知ってたし、ハウンドも狩ったって言ってたから」

「その人は何日くらい前から来たんですか?」

「多分昨日からだと思う。他にはろくな情報持ってなかったし」

「いきなり狩れたなんて凄いですね」

「サッカー部だったし、基礎が違ったのかもね」

「現実の力も反映されるんですかね? それだとタツヤさんも武術か何かしてらっしゃるんですか?」

「そんなことないよ。ただこっち来て毎日闘ってたから慣れただけだよ」


 実際に俺は初めてのハウンド戦でボロボロになった。柊はこともなげに勝ったようなことを言っていた気がする。


「ただ、それ以上の敵にあったらヤバい気がするから早めに保護したい。だから今日は依頼を受けずにタラントの村に行きたいんだ」

「じゃあ、私もついて行っていいですか?」


 個人的にはあんまりおススメしたくないが……マスターが助け船を出す。


「なら、タラントまでいって帰りは乗り合い馬車に乗ったらどうだ?もう午前の便は出ちまってるが、帰りの夕方の便なら閉門に間に合うぜ」


 俺は気になり尋ねてみる。


「門限とか大丈夫? お兄さん心配しない?」

「大丈夫ですよ。兄さんは今夜帰りませんし」


 さらにマスターが助け船をだす。


「タラントなら歩いて5時間くらいだ。街道沿いに行けばモンスターも手強いのはゴブリン程度だからお前達ならなんとかなるだろ」


 5時間も歩くのか……。いきなり嫌になった。明日朝早く起きて乗合馬車で行こうか悩んでいると、すでにニジエはマスターに頼んで携行食を2つ買っている。本当にタラントまで歩く気だ。仕方ない、ギルドハウスを出て大型の革水筒を買うと、水売りから水を買い水筒を一杯にする。正確な容量は解らないが重さで体感的には3リットル程度だろうか。こんな時道具袋には感謝する。この重さを持って歩くにはちょっと苦労するだろう。

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