夢c-3
準備を済ませると2人で門に向かう、普段は草原の方に狩りに向かうのであまり気にしなかったが土を踏み固めたような舗装路があった。これがタラントに向かう街道だろうか。ニジエのペースに合わせるなら聞いていた時間よりかかるかも知れない。もっとも本人は歩く気満々のようだ。仕方ない、歩いていくとするか。大したモンスターも出ないらしいし、ピクニック気分で行けばそんなに苦労もしないだろう。だが、一応連携の確認はしておく。
「もしモンスターが出たらまず、俺が闘うからニジエは周囲の警戒をお願い。魔法は俺が指示を出したら撃ってもらえる?」
「はい解りました。今なら昨日の威力の大きいやつ5発くらいなら撃てますよ」
これを5発もあると考えるか5発しか撃てないのか考えるのは俺の役目だが、安全策をとって5発しかとしよう。あの威力なら万が一の切り札にもなるだろうし。治癒の魔法は使えなくなったら困る。考えをまとめるとタラントへの道のりを歩き始めた。
2時間ほど街道沿いを歩くとふと気が付いた。モンスターと全く出会わないのだ。おそらく定期的に聖水でも撒いているのだろうか?とりあえず闘わないで済むのはありがたい。まだまだ歩くのだから体力は温存しておきたいのだ。たまに護衛付きの人とすれ違うが闘えない人もこの街道なら幾分安心だろう。ふとさっきから緊張してるニジエに気づき声をかけてみる。
「そう言えば、お兄さんって何してる人なの?」
「私も詳しくは解らないんですが、何か大きな魔法を研究してるみたいですよ。領主様から直々に指名が来るくらいですから」
大きな魔法とはなんだろうか? 魔法の知識がまるでないのでなんだかよく解らない。もっとも魔法が使えるニジエも詳しく解らないのだから理解しようがない。それだけ聞くとつい無言になってしまった。今まで妹以外の女の子と碌に話したことがないのだから仕方ないのかもしれないが、出来ればもう少し打ち解けたい。そうだお昼ご飯にしよう。
「そういえばさっき携行食買ってたよね、ちょっと早いけどお昼にしない?」
「まだお昼には時間ありますけど大丈夫なんですか? 少し早い気がしますが」
ごもっとも。しかしお喋りしたいからなんて言える訳無い。何かしらそれらしい理屈をつけなければ。
「この辺はモンスターもいないけどこの先出てくるかもしれないし、そしたらお昼どころじゃないだろう? だから今のうちに食べといた方がいいと思うんだ」
かなり強引な理屈だが、ニジエは納得したのか道具袋から敷き布と水筒、携行食を出すと街道の横に麻の1畳ほどもあるシートを敷いてランチタイムの準備にとりかかる、俺が横の野原に腰掛けると、ニジエは、
「一緒にシートに座りましょうよ。地面に直に座るよりそっちの方がいいですよ」
いつもは気にかけなかったが、こういうところは女の子らしい。お言葉に甘えて一緒に敷き布に座ると丁度並び合うようになった。俺も道具袋から携行食と水筒を取り出す。携行食は刻んだ干し肉とナッツを小麦粉で焼き固めたもので名前はマモーラといった、あまり美味しくないうえに非常に喉が渇く。ニジエは少しずつかじりながら、口の中でふやかすように水で柔らかくして食べてるようだ。俺は食べ慣れてるのでマズイ煎餅の塊を食べるかのようにバリバリとかじり、やはり水で飲み下す。
なんだかお互いに食べるのに夢中で会話が無い。これじゃあ当初の計画が台無しだ。残りをほおばり奥歯でかみ砕いていると、こちらを見て笑う。
「なんだか、本で見たハムスターみたいですよ。そんなに急いで食べなくてもいいんじゃないですか?」
喉に詰まりそうになりつつ、水で一気に流し込むと、急にバカげたようなことをしてる気がした。
「あんまり美味しくないから早く食べ終わりたかったんだよ」
「確かに硬くて食べづらいですもんね。今後は出来れば違う携行食を用意出来ればいいんですが……」
「ちょっと割高になるけど、市場ではドライフルーツが売ってたはずだよ。次はそっちを買って行ったほうがいいかもね」
と言いつつ、俺はドライフルーツが苦手なので今後もマモーラのお世話になるだろう。ニジエ相変わらず携行食と格闘している。なかなか話のきっかけがつかめないでやきもきしていると、ニジエはようやく食べ終わったようだ。
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