夢h-10

「タツヤ、なんだか金髪の女の人がタツヤが払うからっていっぱい飲み食いしてたよ~。これ伝票」


 なんだそれ? 伝票には50オーロの文字が書かれている。1人で食べ切れる額じゃないぞ。


「何頼んだらこんな額になるんだ?」

「鳥の香草焼き丸ごとと子豚のロースト、シーザーサラダにチーズ盛り合わせに魚料理も頼んでたかな~。エールも相当飲んでたよ~」


このメニューはもしや……


「もしかして火竜の花嫁じゃなかったか?」

「詳しくはわかんないけど、黒いローブの魔術師さんだったね~」


 間違いない、グリゴリさんだ。声くらいかけてくれればいいのに。


「ああ、多分知り合いだ。俺の伝票にツケておいておいてくれ」

「あいよ~、凄い知り合いさんだね~。私あんなに食べる人初めて見たよ~」


 安易に奢るなんて言うんじゃなかった。規格外の食欲だ。多分俺達より食べてる気がする。


「陽、随分変わった知り合いだな」

「あのスワンプトロールに襲われた時、助けてくれた人だよ」

「え、それなら是非、ご挨拶したいです」


 周りを見渡すが、すでに姿は無かった。本当に神出鬼没な人だな。いや、恐らく人ではないんだろうが。


「もういないみたいだ。今度会った時挨拶しよう」


 そんなこと言ってると、今夜も枕元に立たれそうだ。

 ひとしきり食べ終えたら今日はもうお開きになった。柊は30オーロ程支払ってる。こっちは80オーロもだ。グリゴリさん食い過ぎだろ……

 ニジエはさようならをいい、貴族街に帰っていく。俺達はいつもの宿だ。


「明日はダンスパーティーじゃん。俺、レベッカさんの足踏まないか不安じゃん」

「それは俺もだよ。明日の放課後、また新堂と練習だし」

「練習できるだけいいじゃん。俺、もう練習の時間無いし」

「あ、間違っても本条先輩にダンスの練習のこと言うなよ」

「言える訳ねーじゃん、あの人が鬼になるだけ損じゃん」


 その時は多分、怒りの矛先が俺に向かうんだろう。考えただけでもおっかない。


「とりあえず、今日は寝ようぜ。明日の事は明日考えるしかないだろ」

「確かに、じゃあおやすみ」


 そういうと柊は自分の部屋に入っていった。俺も自分の部屋に入り、装備を外す。ふと考えがよぎる。もしかしたらグリゴリさんはサキュバスの一種なんじゃないか? 以前は姿を変えてたし、誘惑じみた真似もされた。しかし、そうなると俺を助ける意味が無くなるし…… 考えても仕方ないか。枕元に剣を立てかけいつでも抜けるようにする。失礼かもしれないがもしかしたら、剣を向けることで何かわかるかも知れない。ベッドに入る。さあいつでも来い。

 しかし、グリゴリさんは現れず、代わりに襲ってきたのは睡魔だった。今日の幻覚のことが頭をよぎる。偽りとはいえあのニジエは色っぽかったな。本物はどうなんだろうか? 不謹慎なことを考えながら意識が持ち浮きあがっていく。



―――あれは自分の思いを写しだされただけなんじゃないの?―――

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