夢h-9

「鈴木先輩鈍いですね」

「痛みにもだよ。だから盾役やってられるのさ」


 それはそれで危なそうだが、防衛戦の時の盾捌きを見る限り問題無いのだろう。

 しばらくすると、新堂と柊が帰ってきた。新堂はドレスなどでは無く、男装の令嬢といった姿だ。柊は疲れた顔でテーブルにつく。


「ただいま……ダンス、マジキツイじゃん……」

「アンタ、変なリズムの癖ついてるでしょ。空手やってんじゃないわよ。あれ? 浩二さんは?」

「鈴木先輩なら気分がすぐれないみたいで帰ったよ。メシにしようぜ。ニジエは時間大丈夫?」

「はい、こっちでは兄さん最近帰らないので」


 一体何の魔法を研究しているのだろうか? それも明日、お城で会ったら聞いてみるのもいいかもしれない。いや、ニジエを連れ出してるのだから良い顔されないか。新堂が大声をあげる。


「レベッカ! こっち注文お願い。私いつもの、来栖は? どうせ柊の奢りなんだからたっぷり食べましょ」

「お、悪いね。鳥の香草焼き丸ごとと、パエリア大盛りでお願いね」

「お、クルス達景気いいね~、いつもは半身なのに~」

「柊、じゃなかったユウタが奢ってくれるからね。ああ、私達にエールを1杯ずつ」


 新堂達はとことん飲み食いするつもりだ。俺達も頼もう。


「レベッカ、鳥の香草焼き、こっちにも丸ごとで。ニジエは?」

「私はハーブサラダをもらえますか?」

「おい、陽達のは奢らないからな」

「そんなのわかってるよ」


 ギルドハウスは酒場として本格的に賑わってきた。レベッカは忙しそうに駆けまわる。俺は料理が来るまでニジエと話す。


「そう言えばお兄さんってアーマゲドンオンラインの制作者だよね。なんか詳しいこと聞いて無い?」

「私は向こうではゲームとか見えませんしね。たまにもうすぐ悩みは無くなるって言われますけど、私、特に悩んでないんですが」


 特に情報無しか。しかし悩みが無くなるとはなんだろう? 経済的には問題無さそうだが。話をしていると新堂の前に皿が運ばれて来る。厚切りベーコンにとろけたチーズがかけられて、胡椒がまぶしてある。これが新堂のいつものか。確かに美味そうだ。それを皮切りに次々と料理が運ばれて来る。


「今日は鳥の香草焼き丸ごとがよく出るね~。もう、3つ目だよ~」


 名物料理だし仕方ないんだろうな。ナイフで切り分け、ニジエと柊の更に盛る。ニジエはそれを上品に口にすると。


「これが鳥の香草焼きなんですね。初めてタツヤさんと会った時のことを思い出しました」


 そういえばあの時は門限で食べられなかったっけ。懐かしい。あれからパーティーも装備も随分充実したもんだ。気分もいいし俺もエールでも飲もう。


「レベッカ、こっちにもエールくれ」

「はいな~、ちょっと待ってね~」

「タツヤさん、お酒飲まれるんですか?」

「ああ、なんとなく気分が良くてね」


 ニジエはサラダをつつきながら不思議そうな顔をしている。この感覚は俺だけのものだろう。明日のことを考えると気分がいい。柊は嫌なことを忘れるように料理に夢中になっている。するとレベッカに声をかけられた。

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