夢d-14

 門の前には黒のタキシードを着用し、白手袋をして白髪をオールバックに撫でつけた初老の男性が立っていた。門番という訳では無さそうだ。案内係だろうか。周辺を見回してもニジエの姿は見えない。俺は思い切って初老の男性に尋ねてみる。


「すみません。俺、いや僕たちと同じ年くらいの女性が1人来ませんでしたか?」

「いえ、当店は夕方の鐘と同時に開店になります。まだお客様は誰も来ておりません」


 その言葉に安堵すると同時にニジエの行方が心配になってきた。もう1時間以上たつのにまだ来てないなんて。


「まあ、ニジエさんもレベッカさんと同じ女性だし、服選びとかに時間かかってもおかしくねーじゃん」


 考えてみれば確かにそうだ。なんでこんなことに気づかなかったんだろう。


「しばらく待つしかねーんじゃん」


 またもや柊の正論を受け入れるしかなさそうだ。でも、この初老の男性の前でたむろするような真似はしたくなかった。しかし、書簡は1つしかない。これを使ってしまったら、ニジエは入れないかもしれない。マスターに2枚に別けてもらえば良かった。そんなこと考えてると夕方の鐘がなった。

 それと同時にパカラパカラと蹄の音を立てて、貴族街の方面から2頭仕立ての馬車が門の前に止まる。客がきたのかと思うと従者に手を引かれて下りてきたのは髪に黄色のリボンを付け、肩にレースのショールをかけて白く袖の長い手袋をはめ、空色のドレスを着たニジエだった。あまりの美しさに見惚れていると。ニジエは、


「遅れて申し訳ありません、こういった場には不慣れでどんな服装が相応しいか解らなくて」

「いや、実は俺達も今来たんだよ。な、な、柊」

「ああ、ニジエさんよりちょっと早いくらいかな」

「御二方ともニジエ様をお待たせしないよう、早めに来ておりましたよ。紳士の鑑ですな」


 このオッサンできる! 完璧なフォローだ。流石は高級店だけあり従業員の教育も行き届いているようだ。

 これで3人揃った。と言っても傍目から見れば俺達はニジエの従者のようだ。ニジエは馬車の従者に銀貨を2枚渡し、従者はそれを受け取ると門の横に併設された馬車の停留所の様なとこに向かって行った。俺は初老の男性に向き合い緊張しながら尋ねる。


「もう入れますか?」

「誠に恐れ入りますが、当店は完全紹介制となっております。紹介状か当店をご利用のお客様はいらっしゃいますか?」


 緊張で握っていた書簡を思い出し、それを差し出す。初老の男性はそれを両手で受け取り、失礼します。と一言述べると懐からペーパーナイフを取り出し、蝋印を傷つけ無いように封を切り、内容を確認した。こういうのは屋内でやるんじゃないかと思ったが、冒険者向けの配慮なんだろうと納得する。


「ふむ、マスター・コリン様からのご紹介ですな。こちらへどうぞニジエ様、タツヤ様、ユウタ様」


 門を開け庭園の真ん中の道をとおり、小城へと丁寧に案内される。豪奢な扉の前には2人の門番らしき人は防具屋では見ない綺麗なマクシミリアン式の鎧姿に、鞘に入ったグレイブを持ち、細工の凝ったレイピアを腰に下げて不動の姿勢で立哨していた。ここでは門番の見た目にも凝っているらしい。初老の男性が扉を開けるとそこはまるでテレビで見たお城の入口そのものだった。深紅のカーペットに、壁にも床にもふんだんに真っ白な大理石が利用されており、ここがレストランだと忘れてしまう程だ。


「すげえな……」


 柊の口から思わず感想がこぼれる。俺はただただ圧倒されてしまい、言葉が出ない。ニジエも感動のあまり絶句しているようだ。


「この先はラウンジスペースとなっておりまして軽食やお飲み物もお楽しみ頂けます。また紳士、淑女の皆様の社交場としてもご利用頂けます」


 なるほど、単に広いデッドスペースかと思いきやそんな使い方もあるのか。しかし案内人はここまでついてきて良い物なのだろうか?


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