夢g-4

「タツヤくん、武器持ってる手を切り落としてくれ。こっちは飛び込んで首を狙うから」


 来栖先輩の指示も的確だ。あっという間にオーガ2匹を倒す。気付いたらずぶ濡れのウェアウルフが2匹残っているだけだった。柊がハイキックの要領で1匹を仕留めると、間髪入れずに来栖先輩の突きでもう1匹を倒す。これでこちら側は勝利だ。反対方向は冒険者や兵士の人数が多かったらしく戦闘が終わりそうだ。これなら救援の必要はないだろう。しかし間髪入れずに新堂の指示が飛ぶ。


「治癒魔法を使える者は重傷者から順に治療して。軽症者はポーションで対応。それぞれ急いで」


 俺はほとんど怪我をしていない。手甲に少し引っ掻き傷があるガントレットがなければまずかったかもしれない。柊がこちらに駆けてくる。どうやら無傷なようだ。近づくと息吹で呼吸を整える。コイツ本当に空手部だな。ニジエは大忙しで治癒魔法をかけて回っていた、今日も水の壁にレーザーみたいな魔法、援護に治癒と魔法の連発が続いている。倒れたら大変なのでニジエに近づく。すると、大きく胸を切り裂かれた負傷者の前で茫然とするニジエがいた。


「タツヤさんこの人治らないんです!」


 近づき脈を確認するとすでにこと切れていた。死人はどうしようもないということか。立派な槍を握っている。武器に金をかけ、防具をおろそかにしてしまったんだろう。ここまで考えて、思った。なんで死人を目の前にしてこんなに冷静なんだ俺は。ニジエは泣いていた。


「行こう。まだ救える命があるかもしれないから……」


 ニジエを励まし、負傷者の治療に向かう。幸いにもこちらの死者は1名で済んだ。だが、残念ながら腕や足を失った者は4名もいる。俺はその方が恐ろしかった。治癒魔法でも、無くした四肢はどうにもならないようだ。一息つく頃に門が開いた。いつの間にか近づいていた馬車と共に街に入る。凱旋ではあるが素直に喜べない。

 来栖先輩一行や他の参戦してた冒険者と共に俺達は青銅の蹄に向かう。扉を開けるとマスターが大声で出迎えてくれた。


「おお、お前ら、無事でよかった。詳しい被害報告は後から回ってくるからとりあえず座ってくれ。おい、レベッカ! みんなに飲み物を出してくれ」

「は~い分かったよ~。みんな~守ってくれて本当にありがと~」


 レベッカの気の抜けた声を聞くとようやく安心なんだと思えた。まだ学校が終わるのが早い気がするが、あんな状況じゃ学校どころじゃなかったのだろう。


「マスター、こっちも遠征終えたと思って帰ってきたらこれだ。こんなに頻繁に襲撃なんてあるのか?」

「おっタツヤか。遠征帰りにこれとはついてないな。俺の人生じゃ、こんな襲撃2回しかないな。前回と今回。規模は今回のが激しいくらいだ」


 と、いうことはあのパリン音は襲撃の合図なのだろうか? しかしニジエは3度聞いている。もしかしたら1度目と2、3回目は質が違うのかもしれない。考えても答えが出ない。とりあえずトマスから預かった書簡をマスターに渡そう。


「マスター、これトマスから。マスターによろしくって」

「おう、あいつのチョビ髭も相変わらずだったか? どれどれ」


 マスターはペーパーナイフで書簡を開けると中身を確認する。すると大声があがった。


「おい! タツヤ! お前らケルベロスなんて退治したのか! ありゃおとぎ話の化けもんだと思ったが本当にいたのかよ!」


 マスターは大興奮だ。そんなに凄いことだったのか。


「ああ、ケルベロスの尻尾はトマスに渡したからもうないけど10000オーロは確かに受け取ったぜ」

「ケルベロス相手に10000は安すぎだろう……まあ、今のバルナウルは景気が悪いからそれでもギリギリ捻出したってとこか。よし、遠征報酬2000オーロだ受け取りな」


 そう言うとマスターは金貨を2枚こちらに手渡した。これで12000オーロ、1人4000オーロで割り切れるな。


「じゃあ、報酬別けるよ1人金貨4枚ね」


 ニジエと柊に金貨を4枚ずつ手渡し分配は終わった。当初の予想の倍額で今回の遠征は終了だ。周りを見ると冒険者達はまばらでギルドハウスから出る者がほとんどだ。

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