現実i-8
プリントアウトされたプリクラを備え付けのハサミで半分に切るとこちらに半分を渡し、ゲームセンターを出る。
「それじゃあ、私帰るから。運が良ければまた今夜ね」
そう言い残すと新堂はぬいぐるみを抱き帰ってしまった。
なんだかんだ言いつつも今日は結構楽しかったな。いずれはこんなデートを虹江と2人きりでしたいものだ。帰り道はその思いでいっぱいだった。家に帰ると美弥子が飛びついてきた。
「あにぃ、今日はデート?」
もう言い訳も面倒くさい。
「ほらこれ」
新堂と撮ったプリクラを無造作に渡す。美弥子は無言でリビングにプリクラをもったまま走っていった。また誤解が深まるか。もう別にいい。俺には虹江がいる。我が家の対策にも新堂に協力してもらおう。
「ママ、見てこれ! 合成写真とかじゃなく本物だよ。このフレーム先週出たばっかのやつだもん」
合成写真扱いとは失礼な妹だ。母さんは微笑みながら天ぷらを揚げている。父さんは目元がチラチラ動いてる、あのプリクラが気になってるようだ。
「美弥子、どうせなら父さんにも見せてあげたら」
流石母さん、父さんの性格を分かっている。美弥子は父さんにプリクラを見せるとそれを写メで取り始めた。父さんは目元がニヤけてしまっている。無自覚なのだろうか。
「あーあ、アタシもチャンスがあればな~、バスケ部のりょう君なんかいい感じなんだけどな~」
コイツもコイツで好きな相手がいるのか。あんまり応援したくないような微妙な感じだ。
「オホン、美弥子、そのりょう君とやらを良ければ来週の日曜日に連れてきなさい」
どうやら、父さんの品定めが始まるようだ。少しは応援してやるか。
風呂に入ると今日は何だか緑茶の香りがする。なんだこの入浴剤。何だか自分が茶柱になった気分で風呂をあがり、食卓に着く。母さんの天ぷらはプロ顔負けだ。エビにマイタケ、大葉に掻き揚げとサクサクした食感を楽しみながら、夕飯を終える。
あ、浮かれ過ぎて夜の体操忘れてしまった。まあいいか。今日は早めに寝よう。そう言えば優さんの言ったことだけが気にかかる。科学とオカルト、宗教と盲目の時計職人。分からないことだらけだが、からかってる感じでは無かった。何が言いたかったのだろう。布団に入ると無性に枕元が気にかかる。虹江は今頃、ぬいぐるみを飾っているのかな。新堂は飾るという言葉が想像出来ない。サンドバッグにされてるんじゃないだろうか。夢で会ったら聞いてみよう。俺は布団を丸め抱き枕のようにすると、自分が溶けて落ちて行くかのように眠りに入る。
―――大概重要なことって手遅れになって思い出すものだね―――
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