―――夢j

夢j-1

 起きると下着一枚だった。そういえば礼装を脱いで、グリゴリさんと言い合いしてそのまま寝てしまったんだっだか。俺は手早く服を着て装備を整える。そういえば寝る前、柊に連絡し忘れたな。きっとまだ来てないだろう。一足先に青銅の蹄に向かうとするか。出来ればニジエと2人で話せる時間も欲しいしな。あの様子ならもしかしたら先に来てるかもしれない。剣を背負うと宿をでる。朝市を見てから行ってもいいかな。買った艶やかな林檎食べながら向かう。やや酸っぱいが眠気覚ましに丁度いい。扉を開けるとまだ冒険者達はまばらだった。早すぎたかな? マスターから声がかかる。


「おはよう、タツヤ。リュシエンヌ婆さんから風の伝言だ。護符が出来たから取りに来いとよ。会いに行ったら風の伝言はやめてくれと伝えてもらえねぇか? アレ耳元で囁かれるみたいで気持ち悪いんだよ」


 どうやら、護符は出来上がってるらしい。マスターからのクレームは言っておくとしてもとりあえずこれで古城対策が整った。知り合いが来るまで待たせて貰おう。今日はニジエお気に入りのマンダリーノのジュースを頼むとテーブル席で今日の作戦を1人練る。すると扉から待っていた2人が一緒に入ってきた。


「おはようございます」

「おはようさん」


「おはよ、珍しい組み合わせだな」

「入口でばったり一緒になっちゃっいまして」

「柊は随分早くないか?」

「俺は本条先輩に呼び出されて、朝から猛特訓だよ。メシ食わせてもらって帰ったらバタンだな」


 柊……ついに休日まで無くなったか。ニジエが話す。


「私はタツヤさんと別れて帰ってからハム安君をどこに飾るか迷って、見えないと、こういう時不便なんですね」

「あれ? 陽は今日、新堂とデートしたんじゃなかったのか? 悠紀夫からプリクラの写メが送られてきたぞ」

「今日は俺とニジエと新堂、それにニジエのお兄さんと4人で出かけたんだよ。あのプリクラは偽装彼氏用だよ」

「そうだったのか、なんだか羨ましいな。俺は鬼とデートしてた頃にか」

「柊はこっちでレベッカとデートすればいいだろう。それよりリュシエンヌさんから護符が出来たって連絡あったって。とりにいこうぜ」

「じゃあ今日は古城探索ですね。ソルティステーノに行きましょう」


 3人でソルティステーノに向かう。護符はどんなデザインなのか効果がどうなのか話ながら歩くとすぐだった。


「いらっしゃい、コリンの坊主に文句言われたようだね。でもアタシャ自分のやり方を変えるつもりはないよ。そら、お待ちかねの護符だ」


 そう言われ渡されたのは黒とピンクの数珠状のブレスレットだった。1つだけ透明なクリスタルがあるが、その中には署名した木札が入っていた。どうしたらあの木札がこんなに小さくなるのだろう?


「サキュバスの尾とインキュバスの角が両方揃ったのが吉と出たようだね。魅了除けでなく、幻覚感知の護符が出来たよ。これなら魅了以外の幻覚も感知できるからね。久しぶりにお代以上の働きをしちまったよ」


 どうやら随分いいものを作って貰えたようだ。これなら対策がグッと立てやすくなるだろう。


「なあ婆さん感知ってどんな感じなんじゃん?」


 重要なことを聞き忘れるところだった。


「幻覚がくれば靄が見えるようになるよ。知覚出来るという事は壊せるってことだからね。剣士や格闘士でも簡単に幻覚を壊せるようになるのさ。アンタらパーティーには涙が出るくらい有難いだろう」


 言い終えるとヒヒヒと笑う。リュシエンヌさんはやっぱり魔女のイメージが拭えない。もっともニジエが気に入られてる間は誠実に仕事をしてくれそうだから大丈夫だろう。


「納得いかないなら試してみるかい? エスンティンテープソ・カプティーロ」


 するとリュシエンヌさんが老婆の姿からブルネットのウェーブのかかったロングヘアが似合う彫の深い美女に姿を変えた。そのレオタード姿は目に毒だ。


「護符を手首に付けてごらんなさい」


 ややきつめの高い声で言われ、ブレスレット型の護符を付けると目の前には緑の靄といつもの老婆姿のリュシエンヌさんがいた。


「こんな美人に化けられるなんてすげーじゃん」

「この緑の靄が幻覚なんですか?」

「そうだよ。アタシの若い頃の姿を見せただけさね。試しの手で靄を払ってごらん。害意はないから簡単に払えるだろう」


 こんなに美人だったのか? 時の流れは残酷だ。柊が手でリュシエンヌさんを扇ぐようにすると簡単に靄が散った。

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