現実i-7
「あら、今度は随分あっさり取れたわね」
自分でも驚きだ。このぬいぐるみどうしよう。
「アンタ、ぬいぐるみ集めの趣味とか無いわよね。なら私に頂戴。別にいいでしょ」
「ああ、構わないけど……」
出来れば虹江にだけ渡したかったのだが、成り行きで新堂の手にもぬいぐるみが渡る。
「香苗さんも取ってもらえたんですか? これでお揃いですね」
虹江が嬉しそうならそれでいいか。優さんも満足気な顔をしている。
「成程、こういう事もあるのか。クレーンゲームも奥が深いものだね」
こうして、クレーンキャッチャーの勝負は俺の勝利で終わった。虹江も新堂も優さんもみんな満足そうだ。
「新堂、お前ぬいぐるみ似合わないな」
「そう? この子はウチの簡易サンドバッグになって貰おうかしら」
「おい、やめろよ。そんなら返せよな。妹にやるから」
「あら陽菜って妹いたの? てっきり一人っ子だと思ったわ」
「どうしてだよ。てかサンドバッグはよせよな」
「冗談よ。せっかくだし飾ってあげるわ」
「私は枕元に飾ろうと思います」
虹江は大切にしてくれそうだが新堂は心配だ。そろそろ5時か、まだ遊べそうではあるが。
「今日は朝から動いたから虹江も疲れただろう。今日はそろそろ帰ろうか」
やはり優さんのガードが固い。虹江はもう少し遊んでいたそうではあるが……
「そうですね。今日は楽しかったです。また遊びましょう」
虹江は素直に従う。最近、虹江との別れが辛くない。夢の世界では毎日会ってるからな。
「それじゃあ、また今夜」
「はい、また夢で」
「あんまり危険な真似はしないようにね」
こうして2人は帰っていった。俺と新堂が残される。
「アンタまだ暇よね。ちょっと付きあつて頂戴」
そういうと新堂は勝手に進んでいった。どこに行くんだか教えてくれてもいいのに。
新堂に連れられて来たのは、またドアーズだった。用事なら纏めて済ましてくれたらいいのに。
「ここでプリクラ撮るのよ、みぃ子もまぁ子も陽菜が彼氏って言っても信じなくてね。虹江がいたらアンタ絶対拒否するでしょ」
そりゃそうだ。虹江が見えない物を撮る気にもならない。これも偽装彼氏の一環なのだろうか。新堂は最新機種と書かれたポップの前に行くと大きな証明写真をとる機械のようなものに硬貨を数枚入れる。
「早くこっち来なさい。一緒に撮らなきゃ意味無いんだから。笑顔意識しなさいよ」
新堂に引っ張られ、プリクラの機械の中に入る。女子はよく撮るようだが男子でとるのは稀だ。俺は前に美弥子と1回とったことがあるくらいだ。アナウンスに従うように新堂はフレームを選ぶ。天使が布を引いてるようなフレームだ。笑顔になるようアナウンスが流れ、意識して笑顔を作る。新堂はぬいぐるみを抱き幸せそうな顔をしている。まずはバストアップの写真で次は全身写真だ。いきなり新堂が抱き着いてくる。
「ダンスの練習で散々抱き合ってるでしょ。これくらいで動揺しないで」
そりゃそうだが、何か違う気がする。よく見ると新堂の顔が心なしか赤くなってるように見えた。最後に顔のアップだ。2人して渾身の笑みを作る。これで終了か。
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