夢h-6

「本当にいたのか。魅了の魔法を使うというが、お前ら大丈夫だったのか」

「ああ、ニジエに助けられたよ。でも。その度に水ぶっかけられてたから、一旦策を練りに帰ってきたんだ」

「悪くない判断だな。ふむ、大体の場所を地図に書いてくれないか? 一応注意勧告を出しておこう」


 マスターから地図を受け取り、沼の南東に丸を書く。確かこの辺だ。


「ありがとうよ。報酬は9000オーロだ。サキュバスの尾とインキュバス角はどうする?」

「それなんだけどリュシエンヌ婆さんに見せたらなんか対策練れないかな?」

「そうだな。あの婆さんは俺が子供の頃から今と変わらないし、なんかしら手段があるかもしれん。もしかしたらそれが役立つかもな」


 そう言われ道具袋に2つをしまう。一体いくつなんだあの婆さん。ふと中学の頃、悠紀夫とよく立ち寄った駄菓子屋の婆さんを思い出す。母さんが昔から同じお婆さんだったっていってたな。あれと同じだろうか。個人的には胡散臭いが今は藁にもすがりたい気分だ。交渉はニジエに任せよう。今日はなんだか頼ってばかりだ。テーブル席でジュースを飲む2人に近づく。


「お待たせ、金貨9枚だから1人3枚ね。それと休んだらソルティステーノに行こう。今はあの婆さんを頼りにした方が良さそうだ」

「まあ、ババアの敵はババアってことじゃん」

「そんな事言ってると聞かれてるかもしれませんよ」


 そう言えばそうだ。あの婆さんの風の魔法はどこで聞かれているか侮れない。しかし見ようによっては風の結界と言っていたアレも幻覚の一種だろう。少しだけ何とかなりそうな気がしてきた。


「とりあえず話に行ってみましょう。何かしら知ってるかもしれませんし」


 ニジエがジュースを飲み干すと一路ソルティステーノに向かう。今回も店構えは変わってない。という事は話を聞いていたのだろうか。扉をあけて中に入る。2日連続でこの店に来るとは。


「ヒヒヒ、待ってたよ。ババアの敵はババアだって、よく言ったもんだね」


 バッチリ聞かれていた。柊どうするんだよ……


「すいません! 口が過ぎたっす」

「別にいいさ、見せかける魔法なんていくらでもあるからね、さて、魅了除けの護符がいり用かね」

「はい、そうなんです。タツヤさんも柊さんも魅了されちゃって」

「何を見たか気になるね。まあ、大体予想がつくが。アレは望んだ淫夢を見せる厄介な魔法だよ。作るには骨がおれるね。さて材料はあるんだね」


 俺はサキュバスの尾とインキュバスの角を渡す。


「さて、後この木札に自分の名前を書きな」

「書くのくらい構わないけど日本語でいいのかな?」

「何語だって構わないさ。重要なのは自分で自分の名前を書くってことだからね」


 それも魔法の一部なんだろうか、同じ魔術師として気になったのかニジエが尋ねる。


「それが重要なんですか?」

「ああ、他人に署名されるのと自分で書くのじゃ天と地ほど違うね。自主的に自分の意思を託すんだからね」


 なるほど、自分で書くというのも魔法の一部なのか。また一つ勉強になったな。


「だから、不用意にサインや約束なんてするんじゃないよ。人間以外と契約したら下手したら行動を制限されちまうからね」


 不意にグリゴリさんとの約束を思い出す。もしかしたらアレも何か特別な意味があるんじゃないか? とはいえ特に行動を制限された感じは無い。どうせあの人の事だ。深い意味はないんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る