現実lー5

「で、陽菜はああ言ったけど勝算あるの?」

「そこを悩んでるんだ。来栖先輩がいたら作戦練れたんだけど」

「確かに来栖先輩は7割勝ってるんじゃん」

「ダメよ。あの2人のはあくまで試合、それも正常な状態でよ。今の狂人じみた勝さんは本気で殺しに来かねないわ」


 恐ろしいことを言うな。だがあり得ない話じゃない。あの目はおぞましい何かを感じさせた。


「問題は竹刀じゃダメージにならないことなんだよな。来栖先輩くらい強ければ大丈夫だろうけど、木刀使うのはどうだろう?」


 これならなんとか骨を打つことが出来るだろう。骨折させれば動けなく出来るかもしれない。だが新堂の異論が入る。


「ダメね。確かに木刀ならダメージも入るけど、お互いに相打ちになれば折れちゃうもの。勝さんはバット3本を蹴り折れるのよ」


 なんてことだ。ほとんど化け物の類じゃないか。


「新堂、真剣もってこれない?」

「アンタ正気? それじゃあ、勝っても警察沙汰になるわよ。しかも、それじゃあ殺しかねないじゃない」


 自分で言ってておかしなことに気づく。いけないなどうも感覚が夢の世界寄りになっている。


「そういえば、陽はさっきカウンター打ってたじゃん。あれでいけないかな?」

「それしか無さそうね。アンタ、線見えてた?」

「ああ、でも動くとずれるから反撃の瞬間しか打てないぞ」

「それで行きましょう。というかそれしかないわ」

「何がそれしかないんですか?」


 気が付くと虹江が真横にいた。それぞれの顔を見渡し、柊を見てびっくりする。


「柊さん、何があったんですか?」

「いやこれはちょっと……」

「ちょっとの怪我じゃありませんよ。今治しますから」

「待て虹江、ここは現実なんだ。治癒魔法は意味がない。今晩早めに夢に入ってそれから治した方が良い」


 虹江も感覚がずれてきている。なんだかんだで皆おかしくなってきてるのかもしれない。


「それもそうでした。でも誰にそんなことされたんですか?」

「学校の先輩だよ。優さんのボディガードをしてた人に殴られたんだ」

「兄さんを守ってくれた人にですか? なんで……」

「それについては私が説明するわ。まず陽菜が私のダミーの恋人をしてるのは知ってるわよね。それに嫉妬して友達の柊が八つ当たりされたのよ。ついでに陽菜は決闘を申し込まれた訳」

「なんですかその人! 絶対おかしいです」

「そのおかしくなった原因は、嫉妬の封印が解除されたからね」

「巡り巡って兄さんのせいなんですね……」


 虹江が顔をうつむかせる。とりあえず座るように即すと新堂の隣に座った。何か悩んでいるようだ。


「心配するなよ。明日は勝つから問題無いって」

「そういう問題じゃありません。誤解から決闘するなんて間違ってます。そもそも現実で暴力で解決しようとするのが間違いです」


 確かにその通りだ。しかし向こうもこちらも後には引けなくなっている。どうしたものか……

 虹江が沈黙を破る。


「私、明日、達哉さんの学校に行きます。そして全部誤解で達哉さんの彼女は私だって言います」


 いきなりのストレート発言。それは嬉しいがそれで解決するだろうか?


「言いづらいけど今、陽菜は二股かけてるって噂になってるのよ。私と虹江のことね」

「それ自体間違いですから。ちゃんと訂正すべきです」


 確かにそうだ。もう色欲の封印の影響は無いから、そろそろネタ晴らししても新堂も問題無いだろう。


「そうね。それが通じるかは別としてそろそろはっきりさせた方がいいかもね」


 新堂がやけにあっさりうなずく。前は恋人ごっこやめるの嫌がったのに。


「別に勝さんに打ち明けるくらいいいわよ。この誤解だけはといておかないと」


 なるほど、本条先輩にのみ打ち明ける訳か。なら問題無さそうだ。出来れば全面的に解きたいが、学校中に虹江を連れまわすのは無理だろう。何より今の状態じゃ誰も聞く耳持たなそうだしな。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る