夢c-9
日が傾き始め、暗くなってきた頃、馬車は無事ルンレストについた。多分、閉門ギリギリの時間だったんだろう。馬車が入るとすぐに大きな門が閉じた。馬車から降りるとニジエはぺこりとお辞儀をし、上町に帰っていった。柊と2人になると、とりあえず顔出しだけでもと青銅の蹄に向かう。マスターの元に向かい、柊の登録を済ませる為だ。ギルドハウスの扉を開けると、マスターが慌てたように声をかけてきた。
「無事だったか! こっちも大変だったが、タラントも襲われたらしいじゃないか」
「ああ、なんとか撃退できたよ。でもこっちもって?」
「モンスターが群れをなして襲って来たんだ馬車で帰ったなら見れなかっただろうが城壁にヒビが入った程だ。なんせオーガがウェアウルフを率いて来たからな」
俺はあの森での闘いを思い出した。ましてやオーガなんて勝てる冒険者は少ないんじゃないだろうか。
「なんだって? あれはチュレアの森のモンスターじゃないのか? それにオーガなんてみんな大丈夫だったのかよ」
「ああ、クルスのパーティーが中心になって撃退したよ。やっぱりアイツは頼りになるな」
あの人はやはり只者ではない。オーガを倒せるパーティーなんて、このルンレストに3組いるだろうか? しかしまだ気になることがある。
「マスター、襲撃の直前になんか割れる音がしなかったか?」
「んん? 多少ドタバタしてたが、俺もレベッカも皿は割ってないな。しかしなんでそんな事気になるんだ?」
「いや、知らないならいいんだ。それより新しい仲間を登録させに来たんだ。」
俺は柊を前に出す。柊はかしこまった様子でマスターに挨拶をする。
「はじめましてユウタです、2日間程タラントの鋼の角にお世話になってましたが、タツヤの勧めでこの青銅の蹄にご厄介になりに来ました」
この丁寧な挨拶は運動部だからだろうか? もっとも紹介した俺は恥をかかなくていいが。
「お、移籍か。タラントの鋼の角は確か【ティルス】の街の支部だったな。ここの青銅の蹄は本部だから広いだろう? 依頼も多いから色々やることがあるぞ。ましてやパーティーを組むんなら特にな」
そう言ってマスターは視線をこちらに移す。
「装備からして格闘士かな? ニジエも混ざるみたいだし、バランスのいいパーティー構成じゃねえか。どうだ自信の程は?」
「まだコボルト1体に苦戦するくらいっす。とてもじゃないっすけどタツヤみたいに闘えないっす」
「なるほど、よく自分を解ってるな。どこぞの自信過剰より頼りになりそうだな、ええ、オイ」
そう言いながらマスターはカウンターから身を乗り出しこちらに笑顔を突き出す。柊は心配そうな顔をしながら俺に問いかける。
「お前一体なにしたんだ?」
「いや、ちょっとウェアウルフを狩りに森まで1人で行ってさ……」
「それはヤバいことなのか?」
マスターは相変わらずニヤニヤしている。ここで話すのはバツが悪い。テーブル席に移る為、アップルジュースを2つ頼むと移動する。すぐにパタパタという足音と共にレベッカがジョッキを2つ運んで来た。
「あら~タツヤ1人じゃないなんてめずらし~ね~、もしかしてパーティーでも組んだ?」
「ああ、これからはこいつと一緒に闘うことにしたんだ。名前は……」
「柊 雄太です。よろしくお願いします」
話の途中で柊は俺の言葉を遮って、挨拶をする。こいつはニジエとの時もそうだったがやたらと女性に対する反応が過敏だ。それに対しレベッカは、
「ヒイラギユウタ? 長い名前だね~なんだか貴族様みたいね」
いけない! こいつはこの世界のことは殆ど知らないのだ。俺は慌ててフォローを入れる。
「ヒイラギってのはこいつのあだ名で名前はユウタなんだよ。バカな奴だけど仲良くしてやってくれ」
「そうなんだ。ユウタ、よろしくね~」
それだけ言うとレベッカはまた慌ただしく他のテーブルに注文をとりに向かう。柊はこちらに何か言いたそうな顔を向けつつ、空気を読み、さっきの質問に話を戻す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます