夢c-10

「で、ウェアウルフってどんなんなんだ?」

「コボルトより二回りデカくてパワーとスピードが段違いな上、チームワーク使ってくる奴」


 かなりはしょったが大体合ってるだろう。教訓になったとはいえ、出来れば現実の知り合いにはあまり失敗を知られたくない。


「それはかなりヤバいんじゃないか? よく死ななかったな」

「まあ、2匹倒したところで逃げ帰ってきたけどな」

「お前で逃げ帰る程か。俺なら軽く死ねるな」

「まあ、パーティーを組んでるとこなら割と狩りに行けるみたいだな。さっき話に出てきたクルスさんって人は40本もウェアウルフの爪納品してたみたいだし」

「ん? 来栖先輩もこっちにきてるのか?」


 あっ……言われて気付いた。そういえば新堂と付き合ってる剣道部の来栖先輩を。個人的にはあまり話したいとは思わなかったが、確かに同じ名前だ。運動部では有名な人なのか気になり柊に聞いてみた。


「俺は名前と部活くらいしか知らないけど、来栖先輩って有名なの?」

「当たり前だろ。あの人、去年剣道の全国大会で3位になった人だぞ。お前そんなことも知らなかったのかよ」


 もし本人なら強い筈だ。剣道の全国3位がどれほどのものかよくは解らないが、かなりの実力者なのだろう。しかしより謎が深まっていく。来栖先輩と俺とは殆ど現実で面識が無い。同じ学校に通っているだけだ。もしかして何かとんでもない思い違いをしてるのかもしれない。いっそ聞いてみた方が早いかもしれないので柊に打ち明けてみた。


「なあ、もしかして、則夫や悠紀夫もこっちに来てるんじゃないか?」

「その可能性はあるけど、でもあいつら夜はゲームしてるんじゃないか? なんか今日はイベントがあるって言ってたし」


 そう言えばそうか。だが可能性は捨てきれ無い。いっそ次に会った時に聞いてみようか。もし違っても多少、変な顔されるくらいだし、万が一来ていたら則夫辺りは初日の俺と同じ失敗をしてそうだ。  柊はジョッキから口を離すとこれが本題だとばかりに聞いて来た。


「ところでニジエさんと陽はどんな関係なんだ?呼び捨てにして随分親し気じゃないか」

 

 ああ、めんどくさいモードに入りやがった。俺はかいつまんで昨日のことを説明する。もちろん彼女も現実に存在する人間だということも含めて。


「う~ん、難しいな。もっと色っぽい関係なら蹴りでもお見舞いしたとこだが、そうなると話が違ってくるな。目の見えない人か……。でもこちらでは見えると。すまんが気の利いたことが言えそうにないな」

「でも、性格いいし可愛いだろ」

「それは認めるがな、あまりのめり込み過ぎるなよ」

「なんでだよ、いいじゃないか、あんないい子そうそういないぞ!」

「まだ会って2日目じゃん、何熱くなってんだよ。お前、女子に免疫無さすぎるぞ」

 

 あんな挨拶するような奴には言われたくない。それより今重要なのは共通点だ。


「そんな話よりこの世界に関してだよ、本当に頭がこんがりそうだ」

「そうだな、でも俺は考えるのは苦手だから明日は動画でも見ながら蹴りの練習でもするかな」


 言われて思い出した。明日は日曜日だ。今まではのんびり過ごしてたが、明日は積極的に情報を調べるのもいいのかもしれない、どこから調べたらいいのか、そこから考えないといけないが。


「とりあえず今日はこの辺でお開きにするか。流石に疲れたし、柊は昼は蹴りの練習するんだろ?」

「そうだな。じゃあ宿まで案内してくれ」

「まて、そこまで俺にたかる気か?」

「当たり前だろ、俺が一文無しだってこと忘れたのか」

「野宿すればいいだろう。どうせ盗まれる物も無いんだし、路地裏入った先に広場があるから寝るには充分だぞ」

「頼むからベッドで寝かせてくれって。今日、俺頑張ったじゃん。本当に疲れてるんだよ」


 ここまで懇願されては仕方ない。ルンレストに誘ったのは俺だし、多少の負い目もある。今日は襲撃の件で世話になった訳だし、仕方ない、今晩の宿代くらい出してやるか。


「ならついてこいよ。この先の番犬のねぐら亭ってとこ行くぞ」

「おっいい宿なのか?」

「バカ安宿だ、一晩10オーロだよ」

「なんだよ結構いい宿じゃん」


 こいつは昨日どんな宿に泊まったんだ? 番犬のねぐら亭に着き、他の宿泊客は寝ているからと説明すると柊は静かになり、2人分のチェックインを済ます。


「個室じゃん。昨日は相部屋で知らん奴らと一緒だったから寝苦しかったんだよな」


よく金を盗まれなかったなと思ったが、俺達が寝ている間この世界はどうなっているんだろう? なんだか今日は疑問ばかりの1日だった。この疑問の幾ばくかは現実世界で解ければいいなと思いつつ、柊が部屋に入ったのを確認すると、俺も個室に入り、装備を外すとベッドにダイブする。

 疲れているから、すぐ眠れるかと思いきや考えることが多くて仕方ない。解けないとわかりつつも悩んでしまう。今夜は悩みを相棒に眠りへと落ちる。



―――現実に夢の答えはあるのだろうか……―――

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