夢j-7

「疑うなら探してみればいい。なんなら手伝おうか?」

「ちょっと待ってほしい。俺はキミの話を信じる。あの鎧が透けてないか?」


 見ると、鈴木先輩が着用してた鎧と盾が透けていき、最後には無くなってしまった。まるで生きた証が消えるかのように。


「なによこれ! どうなってんのよ!」

「香苗まず顔を拭け、そして落ち着け。起きてしまった事は受け入れるしかない」

「そう言えばなんか変な匂いするじゃん。なんだっけこれ」


 ニジエが杖の先で柊を小突く。


「柊さん。これはこの場所特有の匂いです。そうなんですよ」


 ニジエは匂いの元に気付いたようだコッソリ香苗の下半身の濡れた部分を蒸発させてる。考えてみればアレに助けられたんだよな。黒い床に残された染みをみる。そう言えば模様があったはずだ。


「とりあえず今回は撤収よ。街に帰ったらこのことは考えましょ」


 香苗は少し顔を赤らめ撤収を急かす。階段を登る時気付いてしまった。


「みんな、後ろ見てくれ。床に……」


 模様だと思っていたそれは特大の魔法陣だった。


「これは放置していくのはマズいと思います」


 ニジエの一声、魔術師がマズイと言ってる魔法陣は無視できない。どうすればいいんだ、こんなの。


「とりあえず崩しましょう。魔法陣を書き換えれば意味のない模様になりますから」

「任せてくれ。今日は良いところ何にも無かったし、適当に傷をつけまくればいいんだろ」


 来栖先輩は剣を抜いて床の魔法陣を傷つけ始める。10分もすると魔法陣は見事に削り取られてしまった。


「これで大丈夫だと思います。多分ここが問題の場所だったと思います。魔法陣は覚えましたから、後で書き写してリュシエンヌさんに確認してもらいましょう」

「結構複雑なのに覚えられるモンなの? ニジエ、アンタやっぱすごいわ」

「魔法陣は書くというより流れをなぞるようなものですから。私は水が流れるイメージを覚えただけなんですよ」


 それでも充分凄いと思うんだが、そう言えば依頼品足りてたっけ? もう正直、剣を振るう力が残って無い。消耗が比較的少ないのは柊だが、消耗されてしまっては帰り道が危うい。


「依頼品足りないならこっちから出すわ。命助けられたし、借りは作りたくないのよ」


 新堂は新堂なりに恩を感じているようだ。


「帰り道は俺と香苗に任せてくれ。柊君、足痛めてるでしょ。多分、爆発の余波かな」


 そう言えば柊にもかなり無茶させたの忘れてた。だが、今回の敢闘賞はニジエだ。あれが無ければ勝て無かっただろう。思えばケルベロスの時といい今回といいニジエには助けられてばっかだ。もう倒れる寸前なのを抱きとめる。今回もおぶって帰ることになりそうだ。


「キミは心配しないでお姫様を守っていなよ。後は俺達に任せてね」


 ニジエは意識を失ってしまったようだ。顔を近づけると寝息が聞こえる。疲れ果てて眠ってしまったようだ。変な気絶とかじゃなくて良かった。

 マントで包んで背負う。今、現実のニジエは起きてるんだろうか? 鈴木先輩はどうなってるんだ? ニジエは起きたら聞いてみたらいいが、鈴木先輩はどう確認しよう。SNSのID交換しておくべきだったな。明日学校で確認できればいいが。生きていればの話だが。


「どうしたんだい、そんな顔して」

「いや、柊にポーション使おうかと思って」

「それなら俺から出そう。はい、柊君これ飲んで」


 来栖先輩が差し出したのは即効性の高級ポーションだ。


「押忍、いただきます。う、これハーブの味キツイ!」


 文句を言うな。そう言えば柊は初ポーションか。ここのところニジエに治癒を頼ってばかりでポーション買うのおろそかにしてたな。今回の報酬でその辺をしっかりしないとな。柊は引きずってた右足が元に戻っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る