夢i-4

「しかし、タキシードって動きづらいな。これで踊るのか」

「俺も不安でたまんねーよ。レベッカさんの足踏んだら大恥じゃん」


 とりあえず、青銅の蹄に向かおう。マスターなら、色々知ってるかもしれない。扉をくぐると盛大な笑い声に包まれた。


「お前、礼装でウチにくるとか場違い過ぎだろ。普通ドレスルームって更衣室で着替えるもんなんだがな」

「そんなの知らないよ。迎えの馬車はここにくるんだよな。」

「ああ、夕方の鐘の後にな。着替える時間を見越して早めに来るんだがな。」

「それを先に言って欲しかったじゃん」

「まあ、お前達は招待冒険者って特別な枠だし、恥にはならんだろう」


 所詮、冒険者は山出し連中ってとこか。もっともそれくらいの扱いのが気楽でいい。とりあえず待つにしても暇だな。腹はタプタプだし。何か食べる気も無いし。座ってボーっとしてると来栖先輩一行が帰って来た。新堂がこちらを見て言う。


「その服装なら大丈夫そうね。2人共案外似合ってるわよ」


 絶対に笑われると思ったのに意外な評価だ。


「ありがとう。そっちの首尾はどうだ?」

「1人魅了回復のポーション3つづつ持たせたわ。多分これで大丈夫でしょ」

「ところで、魅了回復のポーションってどうやって飲ませるつもりだ?」

「これは頭からぶっかけるタイプ。おかげで1つ350オーロもしたわ」


 確かに魅了されたら自分では気付かないからな。そういう使い方もするのか。来栖先輩が続ける。


「一応、古城は見ては来たんだ。中には入らなかったけどね。あれは嫌な気がたちこめてるな」


 来栖先輩は一目でヤバさに気付いたようだ。この辺は経験の差なのだろう。


「これからダンスパーティーなんだって? 俺は盆踊りくらいしか踊れないから、楽しんできなよ。土産話楽しみにしてるよ」


 来栖先輩は踊れないのか。これまた意外だな。でも、新堂は母親にって言ってたし、離婚した後、新堂が習ってたんだろう。


「後は2人共、レディの足は踏まない事! 絶対よ」


 やはりそこは重要らしい。改めて心に刻む。


「後、昨日ダンスホールに行った感じ、踊るのはワルツで間違い無さそうね。それ大丈夫よね」


 もし違う曲だったらどうしようとおもったが、そこも問題なさそうだ。

 話していると、馬車の音が聞こえる。まだ夕方の鐘は鳴ってないのだが……

 降りて来たのは銀の塔に言った時とは違う、白をベースに薄い青と紫がかったドレスを着たニジエだった。まるで妖精のように見える。


「おおっと、お姫様もお早い到着かい」

「似合ってますか?」

「ああ、凄い、女神が降りて来たかと思ったよ……」

「タツヤさん、言い過ぎですよ」

「これ、もしかしたら邪魔かもと思うけど」


 俺は以前買っておいた銀製のユリのブローチを渡す。ニジエは受け取ると丁寧に包装を開き中のブローチを見ると嬉しそうに笑顔を見せる。


「いいんですか? こんなに素敵な物もらっちゃって」

「気に入ってくれればいいんだけど。良かったら胸元に飾ってあげてよ」


 そう言うとニジエは後ろを向いてブローチを左胸に付けこちらに見せた。


「似合ってますか?」

「ああ、選んで良かったよ。ニジエにはユリが似合うな」


 良かった。喜んでくれた。安物だと思わなかったんだろうか? いや、ニジエに限ってそんなことは言うまい。これが新堂なら、せめてプラチナにしなさいくらい言われそうだ。

 お互いに見つめ合っているとマスターから注意が入る。


「2人共、盛り上がるのは城に上がってからにしないか? ここの連中に見られてるぞ」


 その声でハッと気づく。随分恥ずかしい事をしていたようだ。この空気なんとかしないと、とかんがえてると、


「おまたせ~、みんなに見せびらかしたくて着てきちゃった~」


 深紅のドレスに胸元が開きその上はレースが覆うレベッカが入って来た。胸元の白い象牙のブローチが映える。こうしてみると2人で店内に百合と薔薇の花が咲いたようだ。

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