夢k-12
「もう、顔出してもいいぞ。ここから先は無人だ難民はティルスの街に逃げたらしいからな」
「近くに街があるの?」
「ああ、だが、馬車じゃ行けないな。カ―チンガからティルスは砂漠地帯だ。慣れて無いなら歩いて1日はかかるぞ」
確か、砂漠ってラクダに乗って移動するんじゃなかったっけ? 馬車では行けないか。ここはカ―チンガで1泊だな。壊滅ってどれほどだろう。屋根のある建物くらい残っていればいいんだがな。馬車から見る空が暗くなってきた。もう夜か。考えてるうちに随分時間がたってたんだな。
「おい、カ―チンガが見えてきたぞ。ありゃ、城壁の跡か? こりゃひでえな」
残念ながら幌馬車なので外の様子は見えないが相当酷いのだろう。これは野宿決定かもしれない。見張りなんてどう立てよう。ジェイムズの声がかかる。
「着いたぜ、元カ―チンガだ」
馬車を出ると酷い有様だった。見渡す限りボロボロの建物だらけだ。異臭が鼻を突く、暗くて良く見えないが、多分、そこら中に遺体が転がってるんだろう。ジェイムズは荷物と空樽を1つ下ろすと、カチカチという音の後に松明の明かりがともる。
「締めて金貨13枚だ。払って貰おうか」
俺と新堂は金貨を差し出すこれで金は尽きた。もっとも、ここに金は不要そうだが……
「毎度あり、生きて金があったらまた使ってくれや。松明1本分サービスしとくぜ」
火の灯った松明を差し出すと、ジェイムズは帰っていった。夜に馬車の運転は危険な気がするが、夜目にも自信があるのだろう。これから寝床を確保しないと。
「ボーっとしてないで、荷物開けて、別けて自分の道具袋に詰めなさい。早くしないと、明日は寝坊確定よ」
そうだ、夢の世界で夜7時頃なら現実では朝の7時くらいだ。こうしちゃいられない。俺達は急いで荷を解くと各自必要な物を詰め込む。結構量あるな。ご丁寧にテントが2つもある。ああ、松明と油の入った袋もだ。これは有難いな。
「シャキシャキ動きなさい。松明も数に限りがあるんだからね」
新堂は的確に指示を飛ばす。ニジエは荷物を詰めると。レンズ越しに周りを見ているようだ。
「皆さん西側に1階部分が壊れてない建物があります。今夜はあそこで夜を過ごしましょう」
ニジエはレンズ越しなら暗闇も見えるようになったみたいだ。どんどん成長するな。
「柊は樽を持ってきて、ニジエと陽菜は先頭、私は後方の警戒に回るわ」
「大丈夫ですよ。今、ここにモンスターはいません。残念ながら私達以外に命を感じませんから……」
そうか、モンスターを感知出来るってことは人間も感知できるのか。魔術師だからこそ分かる残酷な現実、しかし感傷に浸ってる時間は無い。俺達はニジエを先頭に建物を目指す。たまに鈍い物を踏む感触、多分誰かの遺体だろう。心の中で謝っておく、仇は取ってやるからな。
ニジエに導かれ、恐らく、元宿だった建物に入る。中に遺体が無いのはせめてもの救いだな。適当な大部屋に入る。今日はここで寝るのか。テント用の麻のシートを取り出すと、床に敷く。女子と男子は別れる形だ。
「柊、私達の真ん中に樽を置いて、ニジエは樽の中に水を入れといて。私と陽菜は聖水撒くわよ」
指示通り動く、柊は樽が重かったのか、肩で息をしている。ニジエは樽の中に水を満たしていく。俺と新堂は聖水を部屋のあちこちに撒く。一通りの作業が終わる頃には皆疲れ切っていた。
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