現実d-17
帰り道、人のごった返すいつもの道で虹江を探すがやはりいない。今日はもう帰ったのだろうと思い、改札口に向かおうとすると。
「今日は随分遅いんですね」
不意に声をかけられた。虹江だ。まだいたのか。
「ああ、ちょっと用事があってさ。まだいたのか。随分遅いけど大丈夫?」
「心配いりませんよ。昼も夜も私には関係ありませんから」
確かにそうだろう。だが、身の安全を考えると危険な気がする。
「もしかして、今日は例の勝負を?」
う、確かにそうだが結果は言いづらい。だが夢の世界に行ってしまえば嫌でも解ってしまうだろう。
「ああ、まあ、相手に怪我はさせてないよ」
「なるほど、でもあんまりいい結果じゃなかったんですね」
何故この子はそんな事解るんだろう?
「声でわかりますよ。それに達哉さんは表情に出やすいですから」
それ以上に虹江が鋭いのもあるんだろう。
「ああ、負けちゃったよ。これからは毎日練習しないと」
「そうですか。でも無事で良かった。少し怪我しましたか?」
傷まで見えているのだろうか? 虹江は右手を握るといつものように痛いの痛いの飛んでいけと唱える。残念ながら治癒魔法の様な効果はなかったが、不思議と痛みが和らいでいく気がした。その時だった。
「虹江、こんな時間まで散歩してたのか? 心配したんだぞ」
後ろからスーツ姿の青年に声をかけられる。よく見るとセブンスサインの動画で見た顔だ。
「兄さん。ごめんなさい、散歩が楽しくてつい」
「大丈夫、怒ってないよ。そちらの方は?」
「この方は達哉さんと言って私に良くしてくれる方ですよ」
やはり、虹江のお兄さんか動画の時とは随分印象が違い、物腰の柔らかい、紳士然とした人だった。
「はじめまして。陽菜達哉と申します。虹江さんとは仲良くさせてもらってます」
「なるほど彼が噂の達哉くんか。はじめまして私は神崎優、虹江の兄だよ」
随分歳の離れた兄妹だなと思っていると手を差し出される。気付いて握手すると思ったより力が強い。気付いた、笑顔だが目が笑ってない。
「確か、高校1年生だったかな? どうかな私の作ったアーマゲドンオンラインは楽しんでもらえているかな?」
「すみません。やることが多すぎてゲームは最近できなくて」
「そうか、それは残念だが暇があれば是非プレイしてもらいたいね。おや、その腰の部分はどうしたのかな?」
すっかり忘れてた。流石にこれは目立つだろう。こんなことならジャージで勝負すれば良かった。
「ちょっと転んだ拍子に引っかけてしまいまして。その時破れてしまったんです」
「そうかね、怪我には注意した方がいいよ。こちらでもあちらでもね」
え? この人は夢の世界を知ってる? そう言えば以前、虹江が言って言ってたっけ。お城に呼ばれるくらいの魔術師だと。
「大丈夫です。心配される程の怪我はしませんから」
「そうか、それならいいんだ。さあ虹江そろそろ帰ろう。達哉君もまたね」
そういうと優さんは虹江を引くように住宅街に消えて行った。あの目は何だったんだろう。
妹に近づくなとかそんな意味だろうか? 確かにちょっと過保護そうにも見えたし、悪い虫扱いされたんだろう。しかしこの服、家族にどう言い訳したもんかな。
案の定、帰ると美弥子と母さんは喧嘩でもしてきたのかと問い詰められた。一応転んだと説明したが、ミミズ腫れのことは隠せなかった。来栖先輩から教わったペットボトル体操を終え、シャワーを浴びるとミミズ腫れが染みる。今日は湯船に入るのはやめておこう。
シャワーから上がると今日は鮭と生ハムのカルパッチョが用意されていた。さっきステーキを食べた後なのでこの軽さが良い。酸味と塩気も丁度良かった。早々に食べ終わると美弥子はおかわりをしていた。アイツあんなに食べたっけ? まあいいか育ち盛りなんだろう。
部屋に入ると急に眠気が襲ってきた。今日は随分、身体を動かしたもんな。その分強くなれてるといいな。そう言えばグリゴリさんから言われた試練ってこれのことだったのか。布団に入るとそんなことを考えながら夢の世界に意識がすい寄せられていった。
―――折れそうになるほどの試練だったのか?―――
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