夢k-9
「こちらは現在当店で開発中のレガースとグローブになります。レガースは全圧縮ミスリル銀製、更に衝撃と形状変化の魔法が付与されており、グローブはミスリル銀を糸にして編み、硬化の魔法が付与されています。まだ実戦での試験が終わっていないのですが、格闘士の方の武器になるとこれ以上の物がありません。名前はまだついておらずどうしたものかと……」
なるほど、常時エンチャントがかかってるようなものか。だが実戦データが無いのはどうしたものか……
「いいんじゃない、柊、試しに付けてみなさいよ」
新堂、余りにもいい加減じゃないか。
「マクラウド、何かぶっ壊してもいいもの無い?」
あまりにも無茶苦茶だ。新堂、何考えてるんだ?
「それでしたら、先ほどの防衛戦時に破棄された柄の折れたバトルハンマーがございます。これなら試すには丁度いいかと。できれば店外でお願いします」
いいんだそんなことして。柊は装着すると店の前で大人の頭ほどの金属に軽く蹴りを入れた。
その瞬間、炸裂音と共に金属の塊が粉々になり吹き飛ぶ。平坦だったレガースは当たった部分が少し盛り上がりすぐに元に戻った。
「マジかよ、これ凄すぎじゃん。ほとんど力入れてねーのに」
「お喜び頂き誠にありがとうございます。先ほどのバトルハンマーも全ミスリル銀製です。グローブは衝撃を受けると硬化する仕様となっており、防具としてもご使用いただけます」
これは想像以上だ。ミスリル銀の塊を砕くとは。全力で蹴ったらどうなるんだ?
マクラウドさんは1人店員を呼び、店の前の掃除を命じると。俺達と共に店内に入って行った。
「いかがでしょうか、強いて言うならこの商品、衝撃の魔法を付与した際に魔術師が加減を間違えてしまい、強すぎて、弱い攻撃が出来ないのがネックとなっております。金貨5枚は材料の原価です」
つまり製作費と魔法付与はタダという訳だ。完全に店が赤字だろう。
「俺はこれに決めたじゃん。強すぎて困る事ないし」
柊は大喜びだ。これで戦力は大幅に強化されたはずだ。合計で金貨10枚を払うと、店を出る古い装備は道具袋行きだ。
「欲を言えば、防具も買いたかったけど、今日の全員の動きを見る限り、今のところ必要無さそうね。私が攻撃を受けないように指揮するわ」
もう、来栖先輩のようなことは起こさせないと、決意に満ちた目をしている。これは信用できそうだ。急いで青銅の蹄に向かい扉を開けるといきなりマスターが怒鳴り声をあげた。
「お前達、遅かったじゃないか。罰としてタラント行きの救援物資の積み込みを手伝ってこい。馬車の停留所はわかるな。今頃ジェイムズの奴が1人で荷運びしてるから、すぐ分かるだろ。さあ行け!」
いきなりマスターに叱り飛ばされた。だが、勘のいい新堂がすぐに理解する。
「ごめんね、コリン、あんな重要な約束破って、私達、しばらくこの店に顔出せないわ、さあみんな急ぎましょう」
なるほど、そういうことか。しかし、コイツ芝居上手いな。これならしばらく青銅の蹄に顔を出さなくても不自然じゃないだろう。俺達は今度は馬車の停留所に急ぐ。そこでは大量の樽が手前に置かれ、聖水の詰まった大きな水筒付きの幌馬車と1人の屈強な男が待っていた。多分あれがジェイムズだ。
「お前らか! コリンの言ってた奴らは! 遅いぞ! 早く荷物を詰め込め!」
また叱られる。これも計算のうちか。近づくとジェイムズが小声で舌打ちする。
「怪しまれ無いように、荷物を積み込みながら1人ずつ乗り込め。コリンから話は聞いている。カ―チンガに着いたら代金をよこせ。水の魔術師がいるそうだな。最初に乗り込み、樽の中に水を満たしていけ。浄化も忘れるなよ。」
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