現実f-4

「私、回りくどいの嫌いなの。直球で聞くけど目、見えてるの?」


 直球過ぎだバカ。もう少し気の利いた聞き方って物があるだろう。しかし虹江は動揺することなく答える。


「ええ、香苗さんと達哉さんは見えてますよ。ただ、グラスなんかは見えませんね。この店内の人はほとんど見えません。最近は街でもたまに見かけるかなってくらいですね」

「それどういうこと? 前はもっと見えてたの?」

「そうですね。初めての夢の世界から戻ってすぐにはかなりの人が見えてたんです。でも最近はほとんど見えなくなっちゃいました」


 本当にどういう理屈なんだろう? そこは俺も気になる。


「最近っていつ頃だか思い出せない?」

「たしか4、5日前から突然見えなくなっちゃったんです。何ででしょうかね」


 4、5日前か、思い出せるのは虹江のお兄さんの演説くらいだ。とはいえあのスピーチだけで見えなくなったりするわけないだろう。あの動画自体は俺も見ているしな。


「そのくらいか、確か、4日くらい前からやたらスマホいじってる友達増えたのよね。アーマゲドンオンラインってゲームをしてるみたいなんだけど」


 確か、そんなこともあったな。もしかしたら虹江は何か知ってるかもしれない。


「お兄さん何か言ってなかった? 多分、そのくらいにアーマゲドンオンラインのスマホ版が始まったんだけど」

「残念ながら何も、実は最近あまり兄さんと話が合わなくて。なんだか順調らしいんですけど」

「ちょっと、待って、何でここで虹江のお兄さんの話が出てくる訳?」


 ああ、新堂は知らなかったのか。


「アーマゲドンオンラインは虹江のお兄さんが作ったゲームなんだよ。夢の世界にもいるみたいなんだ」

「そんな大物なの? あのゲーム、なんか変な噂ばかり聞くわよ」

「兄さんは変な物は作ってませんよ。ただの噂でしょう」


 虹江は気を悪くした風でも無く言い切った。よほど兄を信頼しているのだろう。だが偶然にしては出来過ぎている気がする。この拭いきれ無い不安は何なんだろうか。

 

「まあ、いいわ。それより昨日は大活躍だったみたいじゃない。水は攻撃には向かないと思ってたみたいだけどそうでもないのね」

「昨日はその……必死で、よく覚えて無いんです。だからまた同じことができるかどうかはちょっと……」


 虹江は顔が赤くなってきている。あれは昨日のこと思い出したな。新堂が虹江を持ちあげていると、注文したパフェ2つとアイスティーが来た。俺は虹江の手にパフェグラスを触らせる。虹江は気付いたのか細長いスプーンを手に取り上に乗ったティラミスを口に運ぶとこぼさず食べる。


「甘いです。ほろ苦いのも美味しい。確かにこれなら笑顔になっちゃいますね」

「でしょ。昨日はこれ食べてたのよ。今日はゆっくり味わわせてもらうからね」


 2人はパフェを食べながら笑顔になってる。よかった。なんとなくだが気が合うだろうと思っていたのだ。アイスティーのストローを咥えながらなんとなく微笑ましい光景に落ち着きを感じる。2人の話題はパフェから別の物に移っていた。


「でね、コイツ負けてもすぐ2本目挑んできたのよ」

「達哉さんらしいですね」

「しかもその後、空手部の勝さんって人にね……」


 話題は俺のことか。新堂め余計なこと言わなきゃいいんだが。


「凄い人達がいるんですねぇ」

「まあ、私も結構自信あるんだけどね」

「羨ましいです。私はこっちの世界では何も出来ませんから」

「そんなことないじゃない。そう言えば服とかどう選んでるの?」

「店員さんに任せっきりですね、私は見えませんし」

「なら、今度私がコーディネートしてあげるわ。虹江は淡い色の服のが似合いそうね」


 今度は服か。俺は完璧に蚊帳の外だ。ガールズトークってこんなに弾むものなのか。全く混ざれる気がしない。でも虹江が楽しそうならいいか。


「虹江、まだ食べられる? ここのプリン・ア・ラ・モードも中々美味しいのよ」

「私あんまりお金持ってきてませんし」

「大丈夫よ。どうせ陽菜が払うんだから」


 コイツは遠慮というものを知らないらしい。だがここで払わないのもカッコ悪い気がする。父さんの臨時小遣いがあってよかった。

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