現実k-7

「ただゲームをプレイさせたいだけにしては大掛かりすぎるんだよな」

「それに、どうやってこんなことしてるのかも分からないのよね。現実で魔法を使ってるとしか思えないわ」


 そんなこと可能なのだろうか? いや、恐らくは可能なのだろう。馬鹿馬鹿しいことでも今は疑ってかかるべきだ。すでに現実は異常なのだから。


「虹江は外を出歩くの禁止されたりしてない?」

「はい、大丈夫です。今日もあまり遅くならないようにぐらいしか言われてません」


 どうやらカ―チンガに行った事は知られていないようだ。これなら安心して調査を続けられる。

 話しているとようやく柊がきた。ずぶ濡れの上、かなり疲れているようだ。


「遅れてごめん。これでも空手部、早めに終わったじゃん」

「そうなのか? なんで早めに終わったんだ?」

「それが本条先輩が昨日、俺はマスターのお役に立てたんだって。武勇伝を語って、今日は守りの空手を学ぶとか方針が変わってさ。更にアーマゲドンオンラインやれよってなんか変に優しかったんじゃん」


 あのライブイベントでの一件か。あの本条先輩まで完全に洗脳されてるとは。もはや侮れない。


「とりあえず、柊は本条先輩の様子を見てくれ。こうなったら最悪、敵対したものとした方がいいが、それを表に出さないように」

「かなり危険な役目じゃん。仕方ないけどさ」

「そもそも勝さんは虹江のお兄さんのボディガードみたいなものよね。もしかしたら有益な情報を持ってるかもしれないわ」


 見た感じほぼ側近といった状態だ。優さんは現実でも自分の身に危険が及びかねないことをしている自覚があったのだろう。


「とにかく、優さんの最終目的が分からない状態だ。俺達は細心の注意を払おう」

「そうですね。今夜はカ―チンガの調査を優先しましょう」

「それと平行して身体を休めることもね。このまま疲労が溜まれば最悪動けなくなるわ」

「案外、それが狙いかもしれないじゃん」


 柊の意見は的をえてるかもしれない。俺達は一手間違えばジリ貧の状態だ。案外、考えるより休むことの方が正解かもしれない。


「では、今日はこの辺で解散しますか?」

「それが良さそうだ。とにかく今夜の為に身体を休めよう。新堂は1番考えるの向いてそうだから、カ―チンガについて効率の良さそうな調査の仕方を考えてくれないか?」

「構わないわよ。それと虹江、連絡先教えて」


 そういえば、前から聞こうと思ってたけど聞く機会がなかったな。俺達は皆、虹江の携帯の電話番号を聞くと、お開きになった。外の雨脚は一層強くなっている。


「今日って降水率そんなに高くなかったのに。嫌になっちゃうわね」

「天気予報も外れることがあるってことじゃん。仕方ないじゃん」

「まあな。虹江、ちゃんと傘持ってきた?」

「大丈夫ですよ。流石にここまで降る日に濡れる気はありませんから」


 良かった。1つ心配事が消えたか。みんなして店を出ると店内ではまだカップルの言い争う声が聞こえてくる。嫉妬の封印解除か……この次に解除される封印が気になるが現状ではどうしようもない。新堂と柊は走って帰り、俺は駅まで虹江と相合傘で帰る。虹江はポツンと漏らす。


「兄さんは変わってしまったんでしょうか……」


 俺は元の優さんをほとんど知らない。直接会った時の印象といえば、虹江をとても大切にしてるだけという感じだ。


「俺は何を考えてるのかは分からないけど、きっと虹江を傷つけることだけはしないと思うよ」


 これで励ましになるだろうか。分からないが、素直に感じたことだけ告げる。ただ、あの邪悪な笑みも忘れられないが、それはしまっておこう。いたずらに不安にさせても仕方ないしな。駅に着くとそこでお別れだ。


「では、また夢でお会いしましょう」

「ああ、寝る前に連絡いれるね」

「待ってますから」


 こうして虹江は帰っていき。俺はその去って行く後ろ姿を見つめていた。虹江もたまにこちらを振り返る。大丈夫、今夜も会えるさと心で呟きながら見送った。虹江が見えなくなると、踵を返し、俺も帰ろう。駅内ではスマホをいじる人間か、なじりあいをしてるカップルばかりだが、もう気にしない。俺は俺の出来ることをしよう。ムシムシする電車の中でそれだけを考えてた。

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