夢j-4
「いやぁぁぁぁぁ! なんで! なんでぇぇぇ!」
女性の悲鳴が大きく響く。幻覚にはかかってないようだが。
「これ、香苗さんの声です! 何かあったに違いありません急ぎましょう!」
新堂の悲鳴だとは気付かなかった。普段、悲鳴なんて上げる事ないからな。俺達は靄を掻き消しながら急ぐ。靄が黒いなんだこれは?
「この靄には絶対触れないで下さい。多分これは恐慌の幻覚がかかってます」
魅了で無く恐慌だと? 確か新堂は魅了回復のポーションしか用意してなかったはずだ。もし全員恐慌の幻覚にかかっていたらどうなるんだ? 最悪、同士討ちが始まりかねない。そうなれば全滅の可能性もありうる。急いで助けないと。目の前の靄がウザい。どんどん密度が濃くなってくる。
「皆さん、水筒の水を全部出してください! 急いで!」
どうやら質問してる暇は無さそうだ。俺も柊も水筒の水を全てぶちまける。その水の真ん中にニジエが立ち、詠唱する。
「水よ、この靄を切り裂いて!」
瞬間、水は水蒸気となり靄を打ち消していく。視界が晴れて行きこれで見通しも聞くだろう。ニジエは顔が真っ青だ無理もない。こんな大魔法を使ったんだから。
「急がないと……香苗さんが……」
俺はニジエを引き留める。
「ニジエ、ジュースを飲んで少し落ち着くんだ。このままじゃ足手まといになるだけだ」
「でも……あの悲鳴……ただごとじゃないから……」
やりたくないが仕方ない。
「柊、ニジエを少し休ませる。その間守ってくれ。俺は先行して新堂達の様子を見てくる。後から追いついてくれ」
「分かった。ここは任せろ。何があってもニジエさんは守りきるじゃん」
柊ならニジエの守りを任せられる。幻覚の靄と格闘士の相性は良くない。ならここは俺が切り込むしかないだろう。無事でいてくれ新堂。
奥にすすんでも靄はほとんど残って無かった。改めてニジエの魔法が凄いものだと感じさせられる。おかげで地下の階段は一直線に進める。とにかく走る。僅かだがこの世界での死は現実と繋がる可能性がある。知り合いに死なれたら寝覚めが悪すぎる。無事でいてくれ……
地下の最深部ではおぞましい光景が広がっていた。座り込み失禁しながら悲鳴をあげる新堂、何も無い場所に剣を振るい続ける来栖先輩、そして盾を放り出し、鎧を脱いで恍惚としている鈴木先輩。なんだこれは。どうなってるんだ? それぞれの頭部に濃い靄がかかっている。ダメだ。俺の剣じゃ頭ごと斬りかねない。ニジエが来ないと解呪が出来ない。
「フフフフフッ」
上を向くと赤い長い髪の妖艶な美女のようなモンスターが、ビキニを更にきわどくしたような服で頭にはティアラをかぶり、黒い羽で羽ばたきながら二股の尻尾なびかせて宙に舞っている。まるで品定めをしているかのようだ。幻覚にはかかって無いという事はさしずめ【サキュバスクィーン】といったところか。こちらに手をかざし黒い塊のような靄をかけてくる。この密度、今までの比じゃないぞ。黒い靄はコイツがばらまいていたのか。
吹きかかる黒い靄を剣で斬り防ぐ。天井が高い、こちらの剣は届かない。新堂達も放っとけない。手詰まりか、せめてニジエが来るまで時間を稼ぐしかできない。こちらに黒い霧を放ちながら、サキュバスクィーンは鈴木先輩の方に動く。マズイ、今あの人は無防備だ。近づこうとすると靄に吹き飛ばされる。こんな攻撃まで使えるのか。鈴木先輩の首に1本の尻尾が撒きつく。鈴木先輩はだらしなく口を開きされるがままだ。間に合わない! もう1本の尻尾が身体に撒きつくと次の瞬間、血の花火があがり、辺り一面が真っ赤に染まる。2本の尻尾で真っ二つに鈴木先輩を引き裂いたのだ。
「鈴木先輩ぃぃぃ!」
俺の叫びがこだまする。もうどんな魔法やポーションでも回復は不可能だろう。即死なのは明らかだった。すると鈴木先輩だった血肉は光り消えてしまった。
え? これってモンスターが消える時と同じじゃないか? なんで? 鈴木先輩は人間なのに。疑問を考える暇もなく、こちらに黒い靄を放って来る。このままじゃ2人も守りきれ無い。なんとか手段があれば……賭けにでるしかないか。
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