現実f-5
「別に構わないよ。好きなモン頼みなよ」
「いいんですか?」
「いいのいいの。虹江、覚えておきなさい、男には断れなくさせるのよ」
コイツ解ってやってんのか。結局、2時間以上ぶっ続けで2人は食べながら話し続け、伝票の金額は3000円近いものとなっていた。日はもう傾いている。
「そろそろ暗くなるし、帰らないか? 電車混むの嫌だぞ」
「もうそんな時間でしたか。なんだかあっという間でしたね」
「楽しい時間なんてそんなもんよ。じゃあ、虹江、今度の日曜日ね」
「はい、達哉さんも一緒ですよ」
俺と新堂は、去って行く虹江を見送る。新堂は少し残念そうにしながら呟いた。
「あの子は引き抜けそうに無いわね。でもいい友達にはなれそうだわ」
当たり前だ。虹江が仲良く出来ない人間なんているのだろうか? さて俺も帰るか。
「あ、待ちなさい、アンタ今日も夢の世界に行くんでしょ」
行くか行かないかより強制的に行ってしまうのだが。
「ああ、バルナウルでの鑑定次第だけど、もしかしたらルンレストに帰るかもしれないな」
「もし帰って来るなら、青銅の蹄で会いましょ。また今夜」
そう言うと新堂はポニーテールをゆらしながら帰っていった。電車は残念ながらすし詰めのようだ。
家に帰ると良い匂いが漂う。今日はクリームシチューのようだ。
「あにぃおかえり~、知ってる? 今夜ね……」
「色欲の封印解除だろ。でも2時だろ。夜更かしもいい加減にしろよ」
「封印解除見たらすぐ寝るもん」
適当に美弥子の相手をし、日課となったペットボトル体操する。もう手が震えることも無い。500ミリでなく1リットルに変えてみようか。そんなことを考えながら風呂に入る。湯船につかるのは2日ぶりだ。今日はハーブバスか、ミントの香りが爽やかで心地がいい。
風呂上りにはいつものように夕飯の準備が整えられていた。まだ残っていたのか、昨日の唐揚げも食卓にあがっている。最後に父さんが風呂から上がると家族そろって夕食が始まった。美弥子はいただきますの言葉もそこそこに、凄い勢いでクリームシチューを食べる。唐揚げにも手を出した。コイツ最近本当に良く食べるな。俺も負けじと食べるが結局美弥子の勢いには敵わなかった。母さんは嬉しいような困ったような不思議な顔をしてる。恐らく明日の食事の量を増やすかどうかだろう。残念ながら俺は協力できそうにない。
部屋に入りベッドに腰掛けると今日あったことを思い返す。いい日だったな。だが閊えが残るのも確かだ。虹江の見える基準、4日前から始まったスマホ版サービス。そしてグリゴリさんの言葉。もし言う通りなら夢の封印が解けるのは今夜だ。そしてアーマゲドンオンラインの封印解除も今夜。これは偶然ではない気がする。考えても答えが出ない。いかんな、悩みを抱えるのはよそう。いい鑑定結果が出てるといいな。布団に入ると心地よく眠くなる。とりあえず何も考えず寝よう。
―――でも、それって逃避じゃないか?―――
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