夢c-6

「無事だったんですね。怪我はありませんか? ……あれ? そちらの方は?」

「ああ、こっちは柊。同じ高校の友達なんだ。ちょっと怪我してるみたいだから治療してやってくれないか?」 

 そう紹介すると柊はすかさずニジエの目の前に入り、

「柊 雄太です。部活はサッカー部です。どうぞよろしくお願いします!」


 と、なんだかやたら張り切って挨拶している。


「あ、はい。私は神崎 虹江(かんざき にじえ)です。こちらこそよろしくお願いします。あの怪我の治療をしますので痛めた場所を触ってよろしいでしょうか?」

「はい! よろしいです!」


 なんてマヌケな返しなんだ。しかし今、初めてニジエの苗字を聞いた気がする。こちらでは苗字持ちの人と会うことがなかったせいか、あまり気にしたことは無かった。常識的に考えれば、俺も名乗るべきだろうが。……あとでの方がいいか。

 そう言えば柊に気になることがあったので聞いてみた。


「そういえばお前、武器持ってないようだけど、どうやって闘ってたんだ?」

「ああ、俺はなんだか手に持つ武器って性に合わなくてさ。ほら、このレガース付けて蹴りで闘ってたんだ」


 柊の脛を見ると、厚めの皮に金属の鋲が打ち込んであるレガースが装着されていた。なるほど、これならサッカーをする感覚で攻守共に使いやすいだろう。だが人型の敵を蹴るのはサッカーボールを蹴るのとは勝手が違うはずだ。


「サッカーの蹴りで満足に闘えるのか?」

「ああ、それに動画サイトで見た空手の蹴りの真似で、人犬野郎とも闘えたよ」


 もうコボルトとも闘えるようになったのか。少し悔しい思いをしながらも、基礎が違うからと自分に言い聞かす。そんなことを考えていると、ニジエから例の魔法の言葉が聞こえてくる。


「イタイノイタイノトンデイケー。これで大丈夫ですよ」


 柊は少し驚いた顔でニジエを見つめる。


「治癒の魔法って初めてかけてもらったけど、そんなワードなの?」

「はい、私の場合はそうですね。魔法は連想しやすいワードで発動しますから。他の人はまた違うと思いますよ」


 個人的にはヒールとかキュアとかのワードのが連想しやすい気がするが、おそらくニジエはテレビゲームなんてやったこと無いだろう。目が見えないんだから当たり前だが。そういえばニジエはさっきの乱戦中、結構な回数の治癒魔法を使っていた気がする。俺にかける分はあるだろうか?


「ニジエ、済まないけどこっちも治療お願い出来るかな? 後ろから左腕殴られちゃってさ」

「大丈夫ですよ。すぐ治しますね」


 また気の抜ける魔法を唱えるとスゥっと痛みが抜けて腫れが引いていく。何度かかけて貰ってはいるが、相変わらずこの効果には驚かされる。こんなに効果があるなら集中力の消耗も激しいのではないか? 気になって尋ねてみる。


「今日何回くらい治癒魔法使った?」

「今ので11回ですね。こんなに使ったのは初めてですが、私はあまり治癒魔法で消耗しないみたいです」


 確か、水の大砲は5回と言っていた。1回は使ったから残り4回で、そんなには使えないと思っていたが、治癒に至っては10回を超えても平然としている。

 ゲームのように単純なMPの消費とは理屈が違うのだろう。魔法は想像から発動するものらしいから、もしかしたらこの辺はニジエの優しさが関わっているのかもしれない。もっとも、考えても魔法の使えない俺にとっては答えが出ないが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る