夢c-7

「さて、ここはもう大丈夫だな。他の襲われた場所も鎮圧されたみたいだから、一旦ギルドハウスに行こうぜ。怪我が治っても、腹が減って仕方ねぇよ」


 柊が建設的な意見をする。確かに治癒魔法は傷が治っても疲労まで癒える訳では無い。俺も剣を持つ手が震えるくらい消耗していた。


「それはいいな。なにか美味い料理はあるのか?」

「羊肉のスープが美味いらしいぜ、俺は食ったことないがな。支払いは任せた」

「おい、お前、金持ってないのか?」

「……仕方ないだろう。レガース買ったら金無くなったんだもん。これから依頼受けようとした時にあの襲撃だからな」


 たしかにそれならば仕方がない。いや、むしろレガースを襲撃前に買えたのは幸運だったのだろう。レガースを装備せずに闘っていたら、怪我では済まなさそうな激戦だったし。先走って、高いものを購入したとはいえ、今となって考えてみれば柊の判断は間違っていなかったのではないだろうか。

 とにかく襲撃を退けた事は喜ばしいことだ。大量のドロップ品を村の人が拾っている。おそらく売るか何かで村の復興費用にでもするのだろう。こちらに回って来ないのは残念だが仕方ない。これ以上ここにいてもどうしようもないし、2人と共にギルドハウスに向かった。俺も腹が減って仕方ない。柊のことは食事でもしながらゆっくり聞こう。

 ギルドハウスは既に冒険者達でごった返していた。どうやらみんなも一仕事終えて休みに来ているらしい。あれだけの激闘の後だからだろう。あちこちのテーブルから良い匂いが漂っている。柊の言うとおりどうやらここの料理は当たりらしい。

 空いているテーブルを見つけて3人で腰を下ろし、メニューとにらめっこしながら、頼む料理を吟味していると、


「すいませ~ん、シシリクとチャンサ・マハを一皿づつ」


 隣から大きな声で女性が注文している声が聞こえてくる。聞きなれない料理名だがこの店の名物料理なのだろうか? 聞き覚えのある声だが、今はそんな事より空腹を満たすことが先だ。2人にも意見を聞いてみる。


「何の料理にする?」

「俺はさっき言ったとおり羊肉のスープがいいけど、どれがそれにあたるのか料理名で解んねーな」

「いっそのことさっき聞こえた料理を頼んでみてはどうでしょう? 食べたこと無い料理って私、興味があります」


 確かにニジエの提案は魅力的だ。もし不味かったらそれはそれで笑い話になるだろう。俺はさっき聞こえた料理を注文すると料理が来るまで柊に詳しい話を聞いてみることにした。


「この村はあんな襲撃がよく起こるのか?」

「いやまだ2日目だからなんとも言えないが、誰かがこんなこと初めてだって言ってたぞ」

「もしかしてだけど、襲撃が起こる前に何か割れる音がしなかったか?」

「よく知ってるな。確かに空っつーか周り全体から1回、皿が割れるような音がしたぞ。その後すぐあの有様だ。そういう仕様なのか?」

「いや、あんなの初めてだ。定期的に起こるもんなのかな? ニジエは知らない?」

「私は初めてこの世界に来た時、似たような音を聞きましたよ。それから急にこっちで目が覚めた感じですね」


 なんなんだこのタイムラグは? ニジエは俺と同じ日にこちらに来たんじゃないのか? 解らないことが多すぎるが、決定的なのは、あの音が聞こえると何かの変化が起こるということだ。あれはなんで起きる現象なのだろう? 考えても答えは出ない。モンスターの狂暴化と何か関係がありそうな気がするが、あれは何かのきっかけなのだろうか……。


「タツヤさん、どうしたんですか? なんか面白い顔してますよ」


 いけない、どうやら悩みが顔に出て1人100面相していたようだ。表情を指摘され恥ずかしい思いをしていると、巨漢のおばさんが料理を運んできた。かなりハーブの匂いが強いようだ。


「これ羊肉なんですかね? 独特の匂いがします。私羊肉食べるの初めてです」

 

 俺は中学生の頃、ジンギスカンを食べたことがあったが、ここまでハーブの匂いが強い料理は初めてだ。よほど腹が減ってたのか、柊はいただきますも言わずにシシリクという料理に手を出す、何だか骨付き肉をソースに付けて焼き上げた料理のようだ、香ばしいソースの焦げた香りが食欲をそそる。

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