夢f-4
ケルベロスの真上から雨が降り注ぐ。坑道は縦に爆発したようだ。せっかくなら吹き飛ばされていればいいものを。だがこれはチャンスだ。次の息継ぎまで時間はある。何より水に濡れている。これなら勝ち目がありそうだ。そんな時、柊が余計なことを言う。
「まあ、香苗さんは陽の元、好きな人なんだけどな」
コイツもう勝った気で余計なこと言いやがって。見るとニジエの杖を持つ手が震えている。
「私! どうすればいいんですかぁ~!」
ニジエが叫ぶと、ケルベロスに降り注ぐ雨が一層強まる。何か入口からとどろく音が響いてくる。なんかヤバいのが近づいてくる。ゴゴゴゴゴォと。
これは濁流だ。まさか自分で水を作らず雨水まで操ってるのか? ニジエは自分を守るように円形の薄い水の壁を張っている。もしかしなくてもこの濁流呼び寄せてるのか?
「柊! お前のせいで最悪なことになるぞ! どうにかしろよ!」
「すまん! つい口が滑っただけじゃん」
濁流が押し寄せてきた。
「おい、溺れたくなきゃ、この犬にしがみつけ!」
さっきまで近づきたくも無かったが今はこれしか助かる方法が無い。俺も柊も急いでケルベロスにしがみつく。振り払おうと動くがその動作が弱弱しい。次いで濁流が流れ込むケルベロスは壁に叩きつけられ、もがくしかない。俺は思い付き剣を抜くと首に両手を回し刃を内側に向ける。もがけば首が斬れる即席断頭台だ。刃はすこしずつではあるが確実にめり込んでいく、この濁流が終わるまでに一つは首を切り落としておきたい。不意に軽くなる感覚。自分の真横にデカい犬の首が流れてきた。まず一つ目だ。だが次の首にたどり着けない俺もしがみつくので手一杯だ。
「ゴボッ、柊ッ! なんとか、ガボッ、頭潰せ! ガボボッ」
我ながら無茶を言ったものだ。こんな流されてる状態で蹴りなんて打てるわけがない。首一つでも上等だ。ケルベロスは弱り切っている。この濁流さえ収まればなんとか切り伏せることができるかもしれない。柊は両手両足でしがみついている。この濁流なら無理からぬことだ。しかし柊は予想の斜め上を行った。ブチンッ! なんと全身のバネを使って首をねじ切ったのだ。
濁流が収まって来た。流石にニジエの集中力が切れたのだろう。水が引くとニジエの肩で息する姿が見える。ケルベロスはよろめきながら中央の首一つ残して立ち上がっている。こちらの体力も限界に近い。コイツはもう業火のブレスは吐けないだろう。なんとかあの高い位置の首を切り落とせば俺達の勝ちだ。
ニジエが息も絶え絶え口を開いた。
「柊さん、元ってことはタツヤさんの今好きな人って誰なんですか?」
「え? そりゃニジエさんじゃん」
コイツまた軽口を。しかしニジエは顔を真っ赤にし叫ぶ。
「なら、私、馬鹿みたいじゃないですかー!」
叫びと共に杖の先から一条の水の線が走る。それはケルベロス最後の頭に炸裂し見事に吹き飛ばした。全ての頭を失ったケルベロスが地に伏せる。同時にニジエが倒れそうになり慌ててそれを受け止める。ニジエが倒れなくて良かった。
ひと際大きな光が爆ぜる。ケルベロスの討伐完了だ。主にニジエの勘違いのおかげで。黒い尻尾が地面に落ちる。
「柊、それ拾ってくれ」
「お、おお」
柊の体力も限界らしい。ニジエは気を失っている。限界だったのだろう。大魔法連発という感じだったしな。仕方ない帰りはおぶって帰ろう。
「柊、お前帰りにモンスター出て来たら何とかしろよ」
「おい、俺、もう体力の限界なんだけど……」
「それは自業自得だろ。ニジエは俺が守るから、闘えるのはお前しかいないしな」
初めておぶるニジエは軽かった。これからバルナウルに帰ってやることは多くない。ギルドに報告し寝るだけだ。そう言えば柊にガルムの毛皮も拾わせてたっけ。多分10枚はいってない。この場合はどうなるんだろう? とりあえず【ケルベロスの尻尾】があればガルムがいた証拠にはなるかもしれない。そう言えばニジエがケルベロスがいないとガルムは群れないと言っていたな。全滅はさせてないだろうが、他の水の魔法使いに協力を仰ぐか、明日余裕があれば俺達で倒すのもアリか。とにかく帰ろう。まずはニジエを寝かさないと。
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